「ゲノム編集」をめぐる特許紛争、ほぼ決着する方向性が見えてきたようだ。25日、日本の知的財産高裁で判決(1)。となると、今後、日本でも「ゲノム編集」を用いた農畜産物開発の拍車がかかるかもしれない。その特許の多くはモンサント(バイエル)など遺伝子組み換え企業が握ることになるだろう。でも、その行方を握っているのは実は市民。
「ゲノム編集」の特許をめぐってはカリフォルニア大学バークレイ校(UCB)とブロード研究所が争っており、その裁判では弁護士費用だけで20億円以上が費やされているというとんでもない争いになっている。米国だけでなく、EUでも同様に争われており、どちらにどの範囲の特許を認めるかは今後の企業の巨大な利権、支配関係を決めかねない。今回、日本の知的財産高裁はブロード研究所の訴えを認めたが、EUでは却下になっている(2)。日本での争いは最高裁までいくだろうが、この両者がそれぞれ棲み分けして特許を両者で独占する方向には変化はないだろう。
世界の遺伝子組み換えの2大勢力、バイエル・モンサントとダウ・デュポン(コルテバ)もこの争いに関わっている。モンサントはブロード研究所とライセンス契約(農業分野の非独占実施権)を交わしており、コルテバはモンサントよりも早くUCB側の研究者が作ったカリブー・バイオサイエンシス社と農業分野の独占実施権の契約している(3)。
すでに日本のバイオテクノロジー企業もブロード研究所から特許ライセンスを取得している(4)が、農業分野のライセンスはバイエル・モンサントから、あるいはコルテバから得なければならないことになっていくのではないだろうか?(もサント・バイエルの契約は非独占なので、現状では他の企業も直接ブロード研究所と契約できる状態ではあるが)
かつての遺伝子組み換えの特許はモンサントが圧倒的部分を独占したため、他の遺伝子組み換え企業もモンサントにライセンス料を払わなければならず、モンサントを頂点とするピラミッドができあがった。遺伝子組み換え作物1品種の開発に150億円かかるともいわれ、その高い開発費ゆえ、独占も加速していった。
これに対して「ゲノム編集」ははるかに安くできる、と宣伝されもした。巨大遺伝子組み換え企業ではない企業にもビジネスチャンスである、と。しかし、この特許をめぐる大抗争を見れば、この技術の特許ライセンス料も決して低くならないことは想定できる。結局は高いライセンス料をごく一部の遺伝子組み換え企業が吸い上げる構造になってしまうことだろう。
おかしな話で、「ゲノム編集」は自然に起きる突然変異と区別できないという。自然がやっていることと区別できない技術になぜ特許を認めるのか。それを置いても、そのような特許を取る作物になぜその特許を取っている技術が使われていることが明記されてはいけないのか、まさにこの技術の本質がここにある。自然とは同じではなく、市民には知らせたくない技術であるということ。
今、米国や日本で「ゲノム編集」食品が解禁され、市場に出てこようとしているけれども、驚くべきことに、その安全性の長期実験は行われていない。実際に「ゲノム編集」によって操作された生命体からは想定外の遺伝子破壊が発見され、これまで存在していないタンパク質の生成が確認されている。
遺伝子の機能を調べる上では有効なツールであるCRISPR-Cas9も決して、宣伝されるような正確な遺伝子破壊ツールではなく、また特定の遺伝子破壊によってもたらされる副作用の全体像も十分つかめていない。研究・調査以外の環境中に放出する形でこの技術を使うことは許されるべきではない。
その宣伝と現実の乖離は「ゲノム編集」においてもかつての遺伝子組み換え作物と同様の大きさがある。しっかりとそれを共有していけば、その行く先を変えることは可能。農と食の分野で、何を選ぶかは市民に決定権があり、この行方を決める権利は市民にある。
(1) ゲノム編集技術、米研究所の特許認める 知財高裁判決
ゲノム編集特許 商業利用でコスト増の恐れ、回避の余地も
米企業のゲノム編集技術認める判決 専門家の見方
(2) ヨーロッパ特許庁の2月の判断は日米と異なって、ブロード研究所の主張を認めていない。
Rejecting Broad Institute Opposition, EPO Affirms CRISPR Patent Issued to Charpentier, UC, and U. Vienna