1950年代にDNAの二重鎖構造が発見されて、遺伝子の実態がわかった時、人類は熱狂した。生命の秘密がわかったと思ったからだ。生命の基盤となる遺伝子はあたかもロボットの部品のように受け止められ、その部品を組み合わせれば生命が作れると考えて、遺伝子工学が誕生した。
しかし、実際の遺伝子はもっと精妙なものだった。ロボットの部品とは違って、他の遺伝子やノンコーディングDNAと有機的なネットワークを形成していることが最近の研究によって明らかになったからだ。そのネットワークの力で生命は環境の変化にも対応することができる。だからその一部だけ変えてしまえば、その影響はネットワーク全体に及んでしまう。でも、遺伝子工学は未だに70年前の幻想に執着し、遺伝子の改変による新品種の開発をやめようとしない。自然の進化に逆らい、遺伝子を改変し続ければ、改良どころか、生命の再生産、生態系にダメージを与えることは避けられないだろう。
「ゲノム編集」企業にとっては困った知見が次から次へと明らかになってきているが、また新たな問題が発覚した。遺伝子レベルで想定通り、「ゲノム編集」できたとしても、その遺伝子は想定外の動きになってしまう、というのだ。その原因は「クロマチン疲労」と名付けられたものにある。
遺伝子はヒストンというタンパク質に巻き付いて「クロマチン」という構造体を形成している。そのクロマチンが動的に変化することで遺伝子がオンになったり、オフになったり、調整されている。遺伝子が機能する上で重要な機構だ。ところが、「ゲノム編集」によってDNAの二重鎖が切断され、その二重鎖を修復した後も、このクロマチン構造は元には戻らなくなることが最近になって発見された。これは、がんやアレルゲンの発生など機能異常の原因になりうる。

この「クロマチン疲労」は「ゲノム編集」された生物だけでなく、後の世代にも受け継がれる。遺伝子そのものには問題がなくても、その発現の仕組み(エピジェネティックス)には問題が出てしまい、それは後代にも継承される。
しかも、この「クロマチン疲労」は「ゲノム編集」の対象の遺伝子だけでなく、広範囲な遺伝子の発現に影響を与える可能性があるという。だから1つの遺伝子しか変異させていない、としてもその影響はその遺伝子の関連だけに限られるわけではない。
外来の遺伝子・塩基が挿入されていないSDN-1だから安全だ、とか、EUが言うように20箇所以下かつ20塩基以下の変異であれば自然な変異と見なせるというのはまったく成り立たないことが示されたと言える。こうした科学的な知見が発見されても、遺伝子工学を掲げるバイオテクノロジー企業の影響下にある各国政府はその推進を止めないだろう。原発が危険であることが散々分かった現代においても原発が止まらないのと同じ構造だと言える。
その無謀な動きは止めなければならない。
Gene editing disrupts multiple gene functions through large-scale epigenetic changes in a way that persists through successive cell generations
https://gmwatch.org/en/106-news/latest-news/20621

