「ゲノム編集」食品を規制するスイス

 日本の報道を見ていると、「ゲノム編集」が食料危機や気候危機を救う技術だ、なんて気になってしまいかねないけど、それはメチャクチャな根拠のないトンデモ説であることは調べるとわかる。
 
 スイスは世界の4大遺伝子組み換え企業の母国でもあるけれども、2005年以来、遺伝子組み換え生物に関するモラトリアムを定めて、その栽培・飼育を禁止している(1)が、その範囲を2021年に「ゲノム編集」にも広げることを決定した。その「ゲノム編集」の規制方法が2024年半ばまでに提案されるとのこと(2)。スイスでは「ゲノム編集」食品はまだ流通していない。
 
 日本政府は「ゲノム編集」種苗は従来のものと区別できないから表示も義務化できない、などと言っているけれども、実はそんなことはない。問題なのは従来の遺伝子組み換え種子は開発者がその検出方法を申請の時に提示することが義務付けられているのに、「ゲノム編集」は義務付けていないというだけのことだ。だけど、それがなくとも、社会的検証によって排除することは可能であることは知られた事実である。
 
 具体的にはタネから作物、加工食品の材料とトレーサビリティを確認すればいい。スイスの新しい規制制度もそれに基づくことになるのだろう。
 この制度は日本でも不可欠だ。もし、こうした制度がなくなれば有機食品は大変なことになってしまう。遺伝子操作されたものは有機認証の対象とならない。でも遺伝子操作したかしていないか、現在の日本の制度ではわからなくなってしまう。そうなると日本では有機認証が信頼を失い、有機食品が消滅してしまう、という事態になりかねない。
 
 実際にカナダは2021年に「ゲノム編集」生物を有機認定で許容されない遺伝子組み換え生物に含めるとする決定を行っている(3)。日本でも有機認証をめぐり、同様の議論が行われ、決定されるはずだったが、まだそれが保留状態のまま。「ゲノム編集」トマトがオンライン販売などで流通している日本こそ(現在世界で唯一)、急がなければならないのに、日本政府は一体何をやっているのか。これではいくら政府が有機農業の推進を口にしても、その根拠を自らぐらつかせていることになってしまう。
 
 スイスのエマニュエル・アモース議員(写真)によれば、「スイスでは80%の人が遺伝子組み換え食品を食べたくないと考え、農民も栽培する意思はない、そして需要も市場も存在しない」という。これは世界同様の傾向だろう。なぜ、日本政府は未来のない食品に税金を投入するのか、時代錯誤の政策を一刻も早く終わりにしてほしい。
 
(1) 「ゲノム編集」の栽培を禁止しているのは他に米国カリフォルニア州メンドシーノ郡やドイツのバーデン・ビュルテンベルク州がある。
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/pfbid02kkNtbaZ3qts7jiJTxeNvcNfjmGVC97bnZnZcPXWFjWGK65HDzoqyotVVzi3uaPdzl
 
(2) Vers une réglementation spéciale pour les nouvelles techniques d’OGM
https://www.rts.ch/info/suisse/13750261-vers-une-reglementation-speciale-pour-les-nouvelles-techniques-dogm.html
 
(3) Organic production systems: General principles and management standards
(17ページ)3.31
https://publications.gc.ca/collections/collection_2020/ongc-cgsb/P29-32-310-2020-eng.pdf
カナダの有機認証は「ゲノム編集」と合成生物学も排除の決定を2021年に行っている。
https://www.qai-inc.com/news-events/important-updates-canadian-organic-standard-permitted-substances-lists.php

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