欧州委員会が「ゲノム編集」食品規制撤廃案を発表、ドイツなどは反発

 7月5日、欧州委員会は「ゲノム編集」食品に関する規制をなくす案を発表した(1)。つまり安全性の審査もなく、表示もなく、「ゲノム編集」によって遺伝子操作した食品を流通できるようにするというものだ。
 EUでは欧州裁判所が2018年に「ゲノム編集」食品は遺伝子組み換え食品と同等に規制すべきという判断を下していた(2)。遺伝子組み換え企業(バイオテクノロジー企業)はこの決定に対してEUに圧力を加え、昨年にはこの決定を覆す方向の欧州委員会報告を発表、今年夏に覆ると予想されていた(3)。しかし、「ゲノム編集」食品の規制をなくせば、実質的に遺伝子操作された食品があふれ、有機農業にも多大な影響を与え、さらにバイオテクノロジー企業による食の支配がさらに進むことに大きな懸念が示され、この決定は大幅に遅れ、7月5日の案の発表となった。
 
 この案に対しては、ヨーロッパの市民団体だけでなく、オーストリア政府は声明を発表して、この欧州委員会提案は受け入れられないとした他、ドイツ環境大臣も消費者の保護を最優先事項に挙げ、この提案に対して距離を取ることを表明した。EUレベルの決定に対して、個々の構成国が距離を取ることはありうる(4)。
 
 この案が欧州理事会と欧州議会で数ヶ月以内に審議されることになる。
 
 もし、この案が成立したら、バイオテクノロジー企業はいっせいに「ゲノム編集」食品を続々と作り始めるだろう。これまではEUが禁止状態であったことで本格生産にはかかれず、日本で試し運転をするに過ぎなかった。日本でも「ゲノム編集」食品はほとんど売れていない。にも関わらず、この欧州委員会がこの案を出したことは、この技術の安全が確認されたからではない。これを通さないと従来の遺伝子組み換え食品が頭打ちとなって、リストラ続きのバイオテクノロジー企業が持たない。戦争企業でもある彼らの政治力はいまだ強い。その圧力に欧州委員会が屈したことを意味するに過ぎない。
 
 今後の方向性はどうなっていくだろうか? 欧州でも日本と同様に「ゲノム編集でない」ことを示すマークを普及させるという話になっていくだろう。すでにドイツやオーストリアではNon-GMOラベルが普及しているけれども、それがEU全体に普及していくきっかけになるかもしれない。

(1) EU Commission’s new GMOs proposal sacrifices consumers’ rights and puts nature at risk

EU Commission’s new GMOs proposal sacrifices consumers’ rights and puts nature at risk

(2) Gene-edited plants and animals are GM foods, EU court rules
https://www.theguardian.com/environment/2018/jul/25/gene-editing-is-gm-europes-highest-court-rules

(3) 2021年4月5日の投稿(日本語)

EUの判決を秘かに覆そうとする多国籍企業ロビーの実態暴露

2022年5月10日の投稿(日本語)

EU、「ゲノム編集」規制緩和の圧力に屈する?

(4) “Spectacular submission to the biotech industry” and other statements on EU Commission proposal
https://gmwatch.org/en/106-news/latest-news/20249

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