JALが合成生物学チョコレートを国際線で提供開始(中止決定!)

 究極の遺伝子組み換えと言われる合成生物学を使って作られた食品を流通させることは日本ではまだ議論さえできていないが、日本航空(JAL)は国際線で提供を9月から始めたという¹。
 10月13日、この提供を中止するという知らせが入った。追記参照

 従来の遺伝子組み換え食品とは、大豆とか大腸菌とか既存の生物の遺伝子の切り貼りで実現したもの。だけど合成生物学は人間が設計した合成生物を利用する。だけど従来のような遺伝子操作と違うということで米国ではほとんど規制されずに、表示もされずに流通してしまっている。SFのような話に思うかもしれないけど、すでに合成生物が作り出すタンパクなどを利用して、アイスクリームや乳製品、化粧品、洗剤など作られている。
 JALのサンフランシスコ発東京行きの機内でオプションメニューとして提供されるのが米国企業OobliのMilk Chocolate Crisp ‘n Riceというチョコレート。宣伝にはいいことばかりが書いてある。
 「ステビアやアスパルテームなどのような人工甘味料を一切使わず、西アフリカなど限られたところだけで育つ植物が作るプラザインという天然のタンパク質由来の甘みを使ったチョコレート…。カロリーは低く、気候にも、腸内環境にも、ケトン体ダイエットにもいい…(本当?)³
 この植物の量産は困難なので、同様の物質を作り出すように設計した合成生物を使って作るようにした。でも合成生物を使ったとはチョコレートのパッケージのどこにも書かれていない。
 宣伝文句としては「精密発酵」という言葉が使われる。発酵食品なら体によさそうと思うだろう。それに「精密」という言葉を加えたこの言葉はとてもひどいセールス造語だが、この言葉が使われる場合はほぼ合成生物学が使われていると考えていいだろう。
 ブラザイン自体は自然なタンパクだが、このOobliが作ったbrazzein-53は合成タンパクであり、自然界にあるものではない。90日の毒性試験をくぐったから安全だ²ということなのだが、もっと長期の試験ならどうなのか、果たしてその毒性試験がどこまで信用できるものか、わからない。そのような人為的な自然界に存在しないタンパクを使っているのに、表示には一切、そのことが書かれていないというのは大問題ではないか?

 なぜJALはこのチョコレートの提供をするのか? これは国内線でやったら許されない。東京−サンフランシスコ路線であってもサンフランシスコ発東京着の便だけで提供される。国際線の機内であれば日本の領土でないからできるとしたら、これってJALは日本企業であって、日本企業でないということになる。
 
 JALの良識を疑わざるをえない。結局、こんなところで、米国の合成生物学の製品を日本にすりこみ、日本への進出の足がかりを作らせるだけだろう。JALには提供即時中止を求めたい。

 
追記:
 10月13日20時24分のタイムスタンプで、JALから合成生物学を利用したチョコレートの提供中止を伝えるメールが届いた。

 9月後半より国際線サンフランシスコ発便の一部で提供していたが、現在、提供を中止しているとのこと。さまざまなご意見が来たので、提供を差し控えているとのことだった。

 米国でこのような合成生物学の規制が一切なく、表示もされないという状態になってしまっている。それをいいことに、日本国内に向ける便で提供したら、国内にそのまま入ってくることだってありうるわけで、今回JALが提供を開始したことは軽率な判断だった。
 しかし、多くの人がメッセージを送り、それにJAL側も機敏に対応したことは評価できる。もっとも何が問題であったか、再発防止をどうするか、そしてプレスリリースでそれを発表するなどはされておらず、その点は残念だ。

 提供が中止されたのはよかったが、もっとも、9月後半から最近まで東京向けの便でこうしたチョコレートが提供されていた事実は変えることはできない。
 米国での遺伝子組み換えなどの規制がほとんどなくなってしまって、こうした食品の生産が自由になっても、米国内ではNon-GMOラベルが普及しているので、米国内ではその知識のある市民はそうした食を避ける術があるけれども、一方、日本ではそうしたラベルはまだまだ普及していないので、日本に住む市民は避ける手段に乏しいのが現実だ。
 それを含めて考えると、この問題は特に日本において問題が大きいことがわかる。決して対岸の火事ではないのだ。
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(1) Japan Airlines Brings Sweet Innovation to the Skies with Oobli Chocolates
https://www.prnewswire.com/news-releases/japan-airlines-brings-sweet-innovation-to-the-skies-with-oobli-chocolates-302250433.html

JAL、一部国際線でOobliの精密発酵甘味タンパク質使用のチョコレート導入を発表
https://foodtech-japan.com/2024/09/22/oobli-3/

(2) Safety evaluation of oubli fruit sweet protein (brazzein) derived from Komagataella phaffii, intended for use as a sweetener in food and beverages
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/23978473231151258

(3) Oobliのオンラインショップ
https://oobli.com/products/crispy-rice-milk-chocolate-bar

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