「ゲノム編集」食品を押し付ける授業が高校や大学で

 政府がやるべきことをやっているのであれば安心できるのだけど、やるべきことはやらずに、やってはならないことばかりをやっていたら不安は募るばかりになる。ため息出るけど、公金使って一体何をやっているんだ、金返せ、と言いたくなるようなことばかり。高校生向けに「ゲノム編集」を受け入れることを前提の「教育」が行われていることを知った。
 
 農林省の農林水産技術会議は昨年、「ゲノム編集」食品の理解促進のためのアウトリーチ活動と称するものを外部委託で行っている(1)。外部委託といっても委託されたのは元農水官僚。なんか身内で税金使ってやっている感があり、その報告書を読んで、無性に腹が立った。
 
 要するに「ゲノム編集」食品を肯定する生徒を増やすためだけの事業で、それを高校や大学対象を中心に行っているというのだ。だいたい、そのカリキュラムは想像つく。「ゲノム編集と自然の変異は区別がつかない」とか、「ゲノム編集を使うとより短期間で効率的に品種改良ができる」とか。要するに「ゲノム編集」は品種改良のためのバラ色の技術だという授業を行い、それを「理解した」ものがどれだけ出たかをチェックする内容だ。
 
 そうした「教育」の中では、世界で指摘されている科学的知見はすべて無視するのだろう。「ゲノム編集」による変異と自然界の変異とは決して同じではない、という確かな根拠がある。自然界での遺伝子の変異はランダムに起きているのではなく、特に機能している遺伝子(エクソン)の変異はほとんどが生物は修復しようとする。むしろ、自然界での変異、進化で大きな役割を果たしているのは実際のタンパク質の生成では使われないイントロンではないか、という新たな見解も出ている(2)。しかし、「ゲノム編集」では強引にエクソンを破壊してしまう。だから「ゲノム編集」による変異は自然な変異を損なうものである可能性があるのだ。
 また、自然界に起きている変異と「ゲノム編集」による変異は異なるので検出も可能だ、とする論文も出てきている(3)。だから「ゲノム編集と自然の変異は区別がつかない」という設問にはノーと答えざるをえない。
 でもそう答えると、この授業では間違いにされてしまう。間違いとわかっていることを書かないと正解としてもらえないなんて、おぞましい。
 
 なんといっても、このアウトリーチ活動の目的は、生徒や学生たちに「ゲノム編集」食品を肯定的に受容させることなのだ。なんと、この活動の後、87%が「ゲノム編集」を肯定的に捉えるようになったという。何たることなんだろう。しっかりとした情報を持つ英国市民は88%が「ゲノム編集」食品の規制緩和に反対の声を出している。でも、日本では子どもたちの同じくらいが真逆の考えを持たされている。しかも、それが税金でやられているのだ。
 
 いったい、日本はいつ、どこで、「ゲノム編集」食品は受け入れるべき、という政策が決まったのか? 誰が決めたのか? 何を根拠に決めたのか? 国会ではそんな論戦はされていない。
 
 もしこの「アウトリーチ活動」が「ゲノム編集」が持つ危険を指摘する研究にも等しく触れているのであればそれに反対することはない。だけど、そうではない。一方的な推進側の見解を強引に押し付けるのが「教育」として高校や大学で行われている。これは一体、いかがなものだろうか?
 
 民間企業のサナテックシード社/パイオニアエコサイエンス社が小学校に「ゲノム編集」トマト苗を配る計画を発表して、全国で多くの市民がやめてくれ、と自治体に声を出した。でも同時に今度は政府機関が全国各地の農業高校や大学で、「ゲノム編集」について一方的な見解を押し付ける授業をやっている。いったい、どうしてそれが可能なのか? これは地方自治体も協力しているという。だったら自治体の見解を聞かざるをえない。
 
 今回対象となったのは農業高校が中心で、すべての高校でこうした授業をやっているわけではないにせよ、すでに「ゲノム編集」は教科書の中でも触れられているというし、いずれ同様の教育がなされていくことは想定できる。学校で習ったものがまったくウソだったとしたら、生徒たちはどんな気持ちになるだろう? どんな損失になるだろう。もっと他に教えなければならないことが山ほどあるはずだ。

 一方的な見方を押し付けるのは教育ではないし、論戦もできないのは科学でも学問でもない。そんな「教育」の強制は御免被りたい。こんな税金の使われ方をしていることを国会や地方議会はチェックすべきではないか?

(1) 令和3年度農林水産研究推進事業委託事業(アウトリーチ活動強化)報告書
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/attach/pdf/genom_editting-4.pdf

(2) Mutation bias reflects natural selection in Arabidopsis thaliana – 2022
https://www.nature.com/articles/s41586-021-04269-6

(3) First open source detection test for a gene-edited GM crop – 2022/9/7
https://www.detect-gmo.org/

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