「放射線育種」は品種改良ではない

 放射線を照射して新品種を作ることが「放射線育種」とよばれているが、この言葉自体がイデオロギーの産物と言わなければならない。いつの間にか、放射線を当てることを「品種改良」と考えるようになってしまう。しかし、遺伝子操作は品種改良技術ではない。
 放射線育種による品種は1960年代からひっそり作られており、日本では500を超える品種がすでに作られている。だから放射線育種は重要な品種改良技術だと錯覚してしまう人がいる。だけど、待った!

 放射線を当てて遺伝子を破壊することで、確かに生物は以前とは異なる性格を持つようになる。たとえばカドミウムを吸収しにくくなったり、低タンパクになったりする。低タンパクのお米は腎臓病の人にとってはいい。となると、放射線育種に反対するということは腎臓病の人たちに必要なお米を奪うつもりなのか、と詰問されるかもしれない。しかし、ここで冷静に考えてみるべきだ。果たして低タンパクのお米を作る、あるいはカドミウム汚染を避ける唯一の方法が放射線育種なのか、ということを。

 実際には低タンパクのお米を作る方法はいくつもある。しかし、放射線育種は「原子力の平和利用」という名分の元に予算が付けられる。他の方法であればもっとうまく作れてもそちらには予算が回らないのだ。到底、効率的とは言えない方法なのに、大義名分のためにお金が投入され、そして新品種が作られていく。その事実がまた「原子力の平和利用」という神話を強固なものにしていってしまう。この神話に挑まない限り、この技術は使われ続けてしまう。関係者も予算がつかない他の方法を活用することを忘れ、この神話に発想が染まっていってしまう。

新たな植民地支配:遺伝子特許

 この技術を使って、ずっと「品種改良」を続けていくことを考えてみるといい。遺伝子は損なわれ続けることになる。これは言ってみればブロックゲームみたいなものだ。積み上げたブロックから、崩れないようにブロックを1つ1つ抜いていく。1つや2つを抜いて崩れなくても、いつか完全崩壊してしまう。遺伝子操作とはそんなものだ。遺伝子を損なわれた生物は本来の機能を失い、生きる力を失っていく。これが個々の生物に起き、さらにそれが生態系のバランスを崩すことは当然想定しなければならない。偶然、求めていた形質を持った品種がこの方法で作れたとしても、継続的に、大規模に使っていい技術ではない。持続させられない技術なのだ。

 この放射線育種問題は遺伝子組み換え食品や「ゲノム編集」食品問題の陰に隠れて存在していた。だから、それは市民社会がすでに受け入れたということにはならない。ほとんどの人はそんな品種が作られていることを知らないだろう。私自身は遺伝子組み換え食品の問題にぶつかった時にこの存在には気が付いていたが、すでに過去のものになっているだろう、新しいものは「ゲノム編集」でやってくるだろうと思っていた。しかし、今後、その放射線育種米がメジャーなものになろうとしている。なぜ、今、放射線育種なのかといえば、「ゲノム編集」米を作っても市民が受け入れない、ということに尽きるだろう。放射線育種米はこれまでも存在はしてきた。だから抵抗ないだろう、ということだろうか?

 残念ながら、むしろ食の問題に通底している人たちの中に、この問題に関する反応が鈍い人たちがいる。反対しようと思ったら、すでに多くの品種が放射線育種で作られているから事業が成り立たなくなる、そんな発想になってしまうのだろう。しかし、現在起きようとしていることは主食の主力品種を放射線育種にしてしまおうという動きなのだ。そして、そんなことをしようとしている国は世界の中で、日本くらいしか見当たらない。これを受け入れてしまえば、今後の日本の社会がどうなるか考えるべきだろう。

 ドイツは日本の原発事故を受けて、脱原発に踏み切った。それを達成した日に日本では逆に原発推進法案の審議を国会でしている。そして、日本の主食も放射線米に変えようという動きが進んでいる。この「原子力の平和利用」という神話を継続させてしまうことを私たちが断とうとしなければ、日本の将来はどうなってしまうのか、真剣に考えなければならないはずだ。そのためにはこの放射線育種米への大きな転換をどう止めるか、動かない手はないはずである。

 まず喫緊の課題が、秋田のあきたこまちの生産者が従来通りのあきたこまちを栽培し続けられるかどうかである(他の地域の動向も心配である)。あきたこまちは登録品種ではないので、自家採種は可能だが、種籾の元となる原種がすべて放射線育種米になってしまえば、大変だ。従来品種の提供を保証させるように求める必要がある。すでに2025年向けの原原種栽培は始まっているはずだから、動くべきなのは今である。

 さらに問題なのはこれが遺伝子特許による食の支配に繋がることなのだが、それはまたいつかまとめたい。

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