WHO、家畜への抗生物質投与中止を勧告

 WHOは家畜への抗生物質の投与を中止するように勧告した。抗生物質耐性菌は現在、世界中で年間70万人の命を奪っており、この傾向が続けば2050年には年間1000万人が耐性菌で命を落とし、人間の死因の第1位となる。耐性菌に効く薬は存在せず、人類にとっての大きな脅威である。それへの対処として、これは重要な動きだが、これだけに留まれば責任を農家に押しつけるだけで問題解決につながらない。
 米国では消費される抗生物質の8割が家畜に使われる。それも家畜の病気を防ぐために使われるのではなく、健康な家畜を含むすべての家畜の餌に抗生物質を混ぜている。その目的は感染症の防止と成長促進。家畜を工場のような狭い空間に閉じ込めて肉を安く大量生産させるファクトリー・ファーミングで発生しやすい感染症を防ぐことと、少しでも肉を大きくすることが目的だろう。
 さらに言えば、家畜の餌に使われる遺伝子組み換え飼料が問題を大きくしている可能性がある。遺伝子組み換え飼料を与えて、まず直面する問題は家畜の下痢だ。遺伝子組み換え作物が消化器に影響を与えることはすでにいくつもの研究が指摘している。
 この耐性菌が増えてきた主因は2つあり、1つがファクトリー・ファーミングであり、もう1つが遺伝子組み換え飼料にあるだろう。
 良心的に家畜を育てたのではファクトリー・ファーミングで作られる安い肉との競争に負けてしまう。もし、抗生物質を使うな、というのであればこうしたファクトリー・ファーミングを規制すべきであろう。そして、遺伝子組み換え飼料ではない飼料を確保することが必要だ。
 現在、米国でも抗生物質漬けの食肉への懸念は高まっており、抗生物質を使っていないマークのついた肉への人気が高まっている。ファクトリー・ファーミングは斜陽になりかけている。しかし、その落ち目のファクトリー・ファーミングを救済するのがTPPなどの自由貿易協定。日本政府も日米交渉を通じて米国からのファクトリー・ファーミングで作られた食肉の輸入を拡大させつつある。抗生物質を使っていないことを食品表示することが禁止になってしまう懸念も高い。そうなれば、ファクトリー・ファーミングは息を吹き返す。

 すでに伊勢志摩G7サミットでもこの問題は討議されている。2050年に1000万人が死ぬことになりかねないというデータはG7の政府が共有している。もはや、この問題は世界的な緊急課題になっている。
 それにも関わらず、その責任を農家だけに押しつけているのであれば問題は解決しようがないだろう。規制すべきなのに、その逆に規制緩和させるのが自由貿易協定。しかしマスメディアは食品が安くなることばかりをPRする。その安さの代わりにわれわれは人類的な危機的状況を回避する手段を失うことになる。

家畜の抗生物質投与中止を WHO、農家に勧告

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