第1次世代の遺伝子組み換え産業の敗北を決定づけるジカンバ承認違法判決

 「巨大な勝利!」と米国の市民組織、食品安全センター(CFS)代表。米国連邦控訴裁判所が3日、モンサントがもちこんだ除草剤ジカンバの環境保護局による承認を違法とする判決を下した(1)。

 これまで遺伝子組み換え農業の基盤となってきたのはモンサント(現バイエル)の除草剤ラウンドアップ(主成分名グリホサート)。しかし、米国では長年の大量使用により、耐性雑草が増え、効力を失ってきた。遺伝子組み換え農業の危機だ。
 モンサントの対策は古い農薬ジカンバをラウンドアップに混ぜることだった。ジカンバという除草剤は1960年代から使われている古い除草剤だが、こんな古いものを持ち出さざるをえないことに現在の遺伝子組み換え農業の行き詰まりが象徴されている。新しい農薬開発すればいいじゃないかと思うかもしれないが、新農薬の開発は容易ではない。モンサントはこの混合農薬(商品名 XtendiMax)に耐性のある遺伝子組み換えを開発することで対応しようとした(モンサントのライバル、ダウ・ケミカルはベトナム戦争で使われた枯れ葉剤の主成分2,4-Dをグリホサートに混ぜることで対応しようとしている。どちらも古いものを持ち出していることに注目したい)。
 しかし、ジカンバは揮発しやすく、すぐに周辺に流出してしまう。このモンサントのジカンバ耐性遺伝子組み換え大豆、コットンの耕作が始まると、その耕作地の周辺の広大な農場で被害が発生し、農民間の争いが多発した。畑だけでなく、森など周辺生態系に与えた影響も甚大といわれる。ラウンドアップと同様、ジカンバの健康に与える影響を指摘する研究も発表されている。
 環境保護局によるこの農薬承認は違法だとして、米国全国家族農家連盟、食品安全センター、生物多様性センター、北米・農薬行動ネットワーク(PAN)が訴訟を起こした。6月3日に連邦控訴裁判所はその訴えを認めた(ちなみにこの訴訟の相手は環境保護局になるが、当事者としてあげられている名前はモンサント社であり、買収されたバイエル社名ではない。法的責任を負うのはバイエル社だが)。
 トランプ政権はこの間、露骨なまでのモンサント(バイエル)への支持を表明し、昨年には遺伝子組み換え作物への現在の規制すら撤廃する指示を出している。トランプ政権の下、環境保護局もラウンドアップの農薬再承認含め、モンサント寄りの政策を続けてきたが、その政策に大きな打撃を与える判決となった。
 
 すでにラウンドアップによるガン発症をめぐっても訴訟が8万5000と言われ、12万5000にのぼっているとも言われる中、さらにラウンドアップの後継のジカンバ混合農薬XtendiMaxもこれで封じられればモンサントのビジネスプランは崩壊せざるをえないだろう。それだけ巨大な影響を与えうる判決が出たことになる。

 今後、どうなるだろうか? 訴訟の行方も気になるが、モンサントはラウンドアップに代わる農薬の開発を住友化学に依頼している。住友化学が作る農薬に耐性のある遺伝子組み換えの種子をモンサントが作る、というのが次のシナリオとなってしまうかもしれない。

 そして、このジカンバ耐性遺伝子組み換えを世界で先頭切って承認してきたのは他ならぬ日本政府である。米国でCFSなどの市民運動団体によって大きな反対運動が取り組まれ、2年ほど承認が止まっていたにも関わらず、日本では警告を書き続けても、マスメディアはまったく報ずることなく、あっけなく次から次へと承認(実験栽培は2010年、商業栽培、食用は2013年)。今では合計19品種承認(2)。米国政府以上にモンサントに尻尾を振っているのが日本政府ということになる。

 トランプ政権は表現しようもないほどひどい政権だと思うが、司法がまだ機能していることに救いがある。それに対して日本は? 絶望的にならずに変える希望を持ちたい。
 それにしても米国の市民組織のこの底力はすごいと思うのだが、米国でどんな存在になっているか、最後に書いておきたい。今回の訴訟の先頭を切ったのは食品安全センター(Center for Food Safety)だが会員は70万人いるという。そしてもう1つは生物多様性センター(Center for Biological Diverisity)でこちらの会員は170万人。市民組織の声を無視できない力があるのはこの数字にも表れている。
 日本だと同様の問題に取り組む活動的な団体だと会員が1000人を超すことは残念ながらほとんどない。草の根団体で5000人規模の団体は数えるほど。なんたる差だろうか。
 いや、数の問題でめげる必要はない。今は1人の訴えが100万人にもなる時代なのだから。しかし問題はこのように大きな問題だと到底一人では追っていくことができない、ということ。しっかりと問題を捉えるためにはやはりチームプレーが必要で、小さくてもいいからしっかり問題を分析できるチームを作ることなしに、現実を変えることは難しいだろう。どうその活動を可能にしていくか、大きな課題である。

(1) 食品安全センターによるプレスリリース
FEDERAL COURT HOLDS MONSANTO’S DICAMBA PESTICIDE UNLAWFUL, CITING UNPRECEDENTED DRIFT DAMAGE TO MILLIONS OF ACRES
https://www.centerforfoodsafety.org/press-releases/6025/federal-court-holds-monsantos-dicamba-pesticide-unlawful-citing-unprecedented-drift-damage-to-millions-of-acres

ジカンバはモンサント(バイエル)だけでなく、BASFやCorteva(ダウ・デュポン)も出しており、その影響はモンサント(バイエル)だけに留まらない。

連邦控訴裁判所判決文(PDF)
https://cdn.ca9.uscourts.gov/datastore/opinions/2020/06/03/19-70115.pdf

(2) 日本政府が承認した遺伝子組み換え作物一覧
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/torikumi/attach/pdf/index-207.pdf

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