遺伝子組み換え農業もラウンドアップも終わりが見えた

「9割近い遺伝子組み換え作物の終わりの始まり」ついに終わりが見えた!
 モンサント(現バイエル)を相手に闘ってきた弁護士アンドルー・キンブレル氏(Andrew Kimbrell)がインタビューで語る。キンブレル氏はモンサントと闘う運動の中心を担ってきた人と言っていいだろう。Center for Food Safety(CFS)というNGOを作り、数々の訴訟でモンサントを追い詰めてきた。その彼が現在のラウンドアップ訴訟をどう見ているか、この重要なインタビューで語られる(1)。

 バイエルは最大109億ドルで12万5000件とも言われる多数のケースで和解にこぎつけたとしているが、キンブレル氏によるとこれは不公平であり、違法だという。なぜかというと、この和解は対象となる人びとにとっても不公平であるだけでなく、今後、ラウンドアップによってガン(NHL、非ホジキンリンパ腫)になった人の法的権利(デュープロセス)を実質的に奪うことになるからだと彼は言う。

 そして、この和解は連邦裁判所判事によって承認されなければならないが、判事はこの和解に難色を示しているという。和解が成立しない可能性もある。そして和解に応じない人の数も少なくないだろう。

 実際にこの農薬がこれまで承認されてきた背景には、モンサント自身が承認する政府機関の責任者を担う、つまりモンサントの人間が政府の高官になり、政府の高官がモンサントの重役になる、いわゆる回転ドアを続けて、政府の政策を実質的にコントロールしてきたことがある。

 そのために、彼の団体CFSや他の遺伝子組み換え問題に関わる人びとはこの遺伝子組み換え企業と政府の癒着の問題を裁判所に持ち込んできた。そしてその裁判所の中で、その癒着が長い時間をかけてはっきりと暴かれてきた。
 最近のCFSなどの訴訟によって、環境保護局(EPA)によるモンサントの開発したジカンバとの混合農薬の承認が覆された。ジカンバはラウンドアップが耐性雑草が多く生まれてしまい、効かなくなってきた事態に対応するために持ち出された古い農薬だが、流出しやすく、すでに多くの被害が生まれてしまっている。ラウンドアップはもう効かなくなってきており、ジカンバを混ぜたり、またモンサント・バイエルの対抗馬であるコルテバはベトナム戦争で使われた枯れ葉剤の主成分の1つ、2,4-Dを混ぜることで対応しようとしているが、CFSはこちらも訴訟に持ち込んでいる。この訴訟にも勝てば、もうラウンドアップはお手上げとなる。現在の遺伝子組み換え作物のほとんどはこのラウンドアップ向けに作られたものであり、ラウンドアップが終わるとなれば、これはこれまでのほとんどの遺伝子組み換えがもはや有効性を失ったということを意味することになる。
 最近、米国政府はラウンドアップ(その主成分であるグリホサート)を安全として農薬の再承認を行ったが、この裁判が今後も継続することでその違法性に注目が集まるだろう。終わりが見えた。

 人権団体のHuman Rights Watchも「米国政府はグリホサートの食用作物への使用を禁止すべきだ」とする記事を掲げている。もはや、グリホサートの使用は人権問題、法的問題になってきたということだろう(2)。

 最後にこのインタビューでも述べられていることであるけれども、言葉の問題を書いておきたい。日本語では農薬とは農の薬と書く。英語ではpesticide、herbicide、fungicideなどと「殺す」という意味を持つ言葉で表現される。スペイン語やポルトガル語では農毒 (Agrotóxico)という表現が一般的だ。日本語の場合はこの翻訳語で随分ごまかされる。しかし、キンブレル氏はPesticideも間違っているという。レイチェル・カーソンが『沈黙の春』で書いたようにこれは不適切な言い方だ。なぜならば、それは害虫だけを殺すのではない、益虫含む他の虫の命を殺すのだから。除草剤(殺草剤)もまた虫を殺す。ラウンドアップは北米を象徴する蝶、オオカバマダラを絶滅危惧種に追い込んでいる。Biocide、バイオキラー、生態系キラーと呼ぶべきなのかもしれない。
 そうしたものを用いない農業、アグロエコロジー、環境再生型農業(Regenerative Agriculture)が今、注目を浴びている。キンブレル氏の団体、CFSでもそうした農業の実践に関して多くのビデオを作って、その重要性を広げている(3)。単にモンサントとの闘いにとどまらない、土壌、水、さまざまな微生物を守ること、さらには人の社会を守ることにつながっていく。

 米国では多くの自治体がラウンドアップの使用を規制し始め、メキシコやフィジーも禁止に踏み出した。しかし、日本では逆に売り上げが伸びている。もう世界で終わりつつあるものであるにも関わらず。

(1) The Legal Battle Against Roundup and Other Biocides

The Legal Battle Against Roundup and Other Biocides

(2) United States Should Ban Use of Glyphosate on Food Crops
https://www.hrw.org/news/2020/07/13/united-states-should-ban-use-glyphosate-food-crops

(3) Regenerating Paradise

Regenerating Paradise

Chefs for Soil

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