日本政府は国連の会議で農民の権利を形骸化し、種子メジャーの利益のために動いて、世界の市民団体から非難を受けた。現在の日本政府にとってはタネを守ることよりも、バイオテクノロジー企業の利便のために動くことが重要な行動原理になっている実態を多くの人に知ってほしい。
国連食料・農業植物遺伝資源条約(ITPGRFA)の第11回理事会(GB11)がペルーのリマで11月24日から29日までペルーのリマで開催された¹。この国連条約には農民の権利が明記され、農民の権利の重要性が認識した条約なのだが、このリマでの理事会はその農民の権利をめぐり、激しく対立した。種子企業・バイオテクノロジー企業の利益のために、農民の権利を形骸化させたからだ。特に議長国のスイスや日本の動きには批判が集中している²。
この条約では、種子(遺伝資源)の共有の仕組みが規定されている。つまり、農民が長年守ってきた種子を利用したいものは、その農民に利用によって得られる利益を農民に還元することが義務付けられている。
南の地域の豊富な生物多様性を北の企業が勝手に使って、特許を取り、その使用権を独占するーこれはバイオパイラシー(生物資源の盗賊行為)であるとして非難されるが、その行為から農民の権利とタネを守ることが重要なのだ。でも、この会議ではそのバイオパイラシーを可能にして、この条約で規定された農民の権利を形骸化させたのだ。
近年、種子のデジタル配列情報(DSI、遺伝子情報)こそが大きな攻防の場になっている。
というのも、先進国の種子メジャー(種子の寡占企業)にとっては、これさえあれば、作りたい新品種の開発が圧倒的に効率的にできる。そして、近年は、種子メジャーのビジネスモデルは種子を売ること以上に特許料(ライセンス)を売ることに移行しつつある。つまり、その遺伝子が持つ機能について特許を取得したり、その植物自身に特許をかけるのだ。その上で鍵になるのがこのDSIの活用ということになる。
このDSIは種子メジャーにとっては宝の山で、そこから自分たちが自由に使えるようになれば、そこから自分たちの利益を生む特許をいくつも取れる時代になっている。
だから、彼らの利益に突き動かされるスイスや日本の代表団は、DSIの利用を無償化させ、農民への利益還元制度は形骸化させる圧力をこの理事会にかけているのだ。
多くの遺伝資源は南の国に存在する。でも日本政府はその国の農民に利益を還元したくない。つまり、南の農民たちが長年守ってきた遺伝資源を勝手にフリーライド、無料で使いたい、と言っているのだ。そして、そうやって育成した新品種は特許や育成者権で企業が独占することができる。先進国政府は「DSIは人類共通資源として無料化しろ」という、それ自体いいことのように思われるかもしれないが、もしそうなれば、長年、その遺伝資源を守ってきた農民の努力は奪われ、その貴重な遺伝資源は維持できなくなるかもしれない。しかし、種子メジャーにとっては遺伝子のデジタル配列情報さえあれば、もう実物のタネやそれを守る農民はなくなっても構わない。
日本は、DSIの利用に対する強制的な利益配分(課金)に消極的、あるいは反対する立場を崩していない。「資源のタダ取りを続けるつもりか」と農民の権利を守る市民団体から強く批判されている。
日本政府は農民の権利に対して、各国の国家主権の尊重を挿入することを求めた。農民の権利を認めるかどうかは、各国に任せれば、国際的な農民の権利は弱められてしまう。さらに、日本政府はMLS利益配分システムと農民の権利の議論を分けることを主張した。これもまた農民の権利の弱体化を狙ったものだ。
食料主権を求める国際的な市民のプラットフォームとして活動するIPC Food SovereigntyはX(旧Twitter)への投稿で、農民の権利を奪う提案をし続ける日本政府の動きを止めないとまずい、として日本政府を孤立させろ、と訴えた³。
果たして日本政府は誰のために働いているのか。少なくとも農民のために働いているのではまったくないことがはっきりする。実に不名誉なことだが、この政府は私たちの代表と言えるのだろうか?
結局、この理事会は農民の権利を守るというお題目を唱えつつ、実質的に、その権利を守るための行動は一切拒否して終わることになった。それは世界の農民の権利を無視して、極少数の種子メジャーが特許を独占するための道(もちろん、「ゲノム編集」や合成生物学にもつながる)を確保したということだろう。その急先鋒が日本であり、議長国のスイスであった。世界の批判は日本やスイスなどの先進国に集中している。でも、日本国内ではこのことはどれだけ知られているだろうか? 知られなければ日本政府はこのような行動を続けるだろう。果たして、それは私たちの総意と言えるだろうか?
(1) Seed Treaty’s MLS enhancement package risks legitimizing biopiracy and inequity
Seed Treaty’s MLS enhancement package risks legitimizing biopiracy and inequity
(2) Seed Treaty: Swiss Chair pushes to adopt cleaned SMTA, no discussion on bracketed proposed amendments
https://twn.my/title2/biotk/2025/btk251110.htm
FAO: UN Rapporteur on the right to food calls for Seed Treaty to address DSI-induced biopiracy
https://twn.my/title2/biotk/2025/btk251108.htm
Seed Treaty’s MLS enhancement package risks legitimizing
biopiracy and inequity
https://twn.my/title2/briefing_papers/twn/Seed%20Treaty%20MLS%20enhancement%20TWNBP%20Nov%202025%20Nithin.pdf
(3) IPC Food Sovereignty
While at @planttreaty #GB11
Japan delegate tries to mainstream #UPOV in the resolution on #FarmersRights, Kenya's High Court declares @UPOVint illegal, precisely for restricting farmers rights to seeds. We call on govts to isolate and secure the spacehttps://t.co/ZhGzPOXeYq pic.twitter.com/7cee8DXj6C— IPC Food Sovereignty (@IPCSovereignty) November 29, 2025
