メキシコ:トウモロコシ保護法はトウモロコシ国家管理法?

 生物多様性こそが私たちの命を守ると書いた(1)。その多様性を守ってきた農家のタネが危うくなっている。ラテンアメリカの他の国々でも大きな問題となっている。

 特にメキシコが今、とても危ない。TPPや米国などとの自由貿易協定が大きな制約をもたらそうとしている。

 メキシコでは先住民族が多様なトウモロコシ文化を創り上げた。先住民族のミルパ農法は米国の近代農法をしのぐほどの生産性を誇るばかりか、生態系を破壊せずに持続できる。米国の近代農法によって、わずかな期間に土壌の半分が奪われたことを考えればその農法の先進性がわかるというものだろう。

 しかし、2011年、メキシコでは「モンサント法案」が登場して、企業の種子を押しつける危険が高まった。この時は農民運動の反対でこの法案は葬り去ったのだが、TPPが成立し、メキシコ政府は参加を決定してしまった。TPP参加国はUPOV1991年条約を批准しなければならない。この条約を受け入れることで、モンサント法を制定圧力が高まる。さらに、問題となってきているのが米国・メキシコ・カナダ協定(USMCAあるいはT-MEC)。北米自由貿易協定(NAFTA)をトランプが攻撃して、新しい協定としてUSMCAが出てきた。ここでもまたメキシコはUPOV1991年条約を強制され、それによって、メキシコの農家は種子が奪われる危険が高まっている。

 メキシコでは遺伝子組み換えトウモロコシの栽培は禁止されている(遺伝子組み換えコットンと大豆が栽培されているが、GM大豆に対しては先住民族の養蜂家たちの運動によってユカタン半島での栽培が禁止されている)。しかし、米国との自由貿易協定によって安い遺伝子組み換えトウモロコシが輸入され、メキシコの伝統的な品種と交雑して大きな問題になっている。

 トウモロコシを文化的国家遺産と捉えるメキシコはこのメキシコが誇る伝統的な多様なトウモロコシの品種を守る運動を展開させてきた。そして、今年、ついにネイティブ・コーン促進保護連邦法が今年3月に成立した。国外で在来種を守る運動をしている人たちが祝福を送った(2)。しかし、メキシコ国内からはこれはデタラメな法律だと告発の声が上げられている(3)。

 この法律では、トウモロコシは「ネイティブ」「ハイブリッド」であるかを明記させるが、遺伝子組み換えトウモロコシの禁止がうたわれていない。遺伝子組み換えトウモロコシをなくすことがオブラドル現大統領の公約なのだが(4)、その脅威をこの法律では防ぐことができない。各地にコミュニティ・シードバンクが作られるが、農民たちの自由な運営ではなく、国家に統制されることになる。そして、さらに伝統的なトウモロコシ栽培を国家が規制する条項まで入ってしまっている。

 そもそもメキシコでは先住民族たちが自由にトウモロコシの種子を交換し合うことでその多様性と持続性を守ってきた。それを国家統制に置くというのがこの法律となるわけだ。そしてその政府は米国との自由貿易協定やTPPの管理下に置かれる。こうなってしまえば、農家の種子はもはや自由を奪われてしまうことになってしまう。

 世界の小農運動団体 La Via Campesina に属するメキシコの運動団体は以下の要求を出している。

・ 貿易協定から農業と公共物を外すこと。
・ UPOV1991システムに加盟することを拒否する。
・ 種苗法改定に反対する。
・ ネイティブ・コーン促進保護連邦法を拒絶し、その撤廃を要求する(5)。

 自由貿易協定で苦しめられるのはメキシコだけではない。同じくTPP11の参加国であるペルー、まだTPP参加は決定していないが、参加すればメキシコと同じく種苗法の改定などの圧力に苦しむことになる。

 ペルーでは有機農業、アグロエコロジーが盛んな国でもあるのだが、そうした団体が中心となり、「多様性こそわたしたちのアイデンティティ」というキャンペーンを開始。ペルーでの遺伝子組み換え禁止モラトリアムの延長を求めている(6)。
 TPPがもたらす多様性への攻撃、これが進んでいけば、わたしたちの生存可能性はどんどん減っていくことになるのではないだろうか? 

 日本の種苗法改定、さらにはTPP、これらはメキシコやチリでの動きと強くつながっている。そして、さらに問題なことがアジアで起きている。近いうちにまとめる予定。

(1) ブラジルでいかにしてクレオール種子条項が生まれたか?
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/4436708863022576

(2) Mexico Includes Native Corn As Part of National Heritage, Passes Law To Prevent ‘Intellectual Plundering’
https://www.latinpost.com/articles/144653/20200407/mexico-includes-native-corn-as-part-of-national-heritage-passes-law-to-prevent-intellectual-plundering.htm

(3) Jornadaはバイエルーモンサントがこの法律を祝福しているとまで書いている。
Celebra Bayer-Monsanto la ley de fomento del maíz nativo
https://www.jornada.com.mx/2020/04/11/opinion/023a1eco

LEY DE FOMENTO Y PROTECCIÓN DEL MAÍZ ¿NUEVO EMBATE LEGAL CONTRA LOS PUEBLOS?
https://ojarasca.jornada.com.mx/2020/04/10/ley-de-fomento-y-proteccion-del-maiz-nuevo-embate-legal-contra-los-pueblos-8647.html

“Falso, que el Estado pueda impedir el maíz genéticamente modificado”
https://piedepagina.mx/falso-que-el-estado-pueda-impedir-el-maiz-geneticamente-modificado/

(4) メキシコの研究者や農家、食の運動に関わる市民は大統領に公約の実行を求めている。一方、Covid-19の蔓延でアグリビジネスが規制緩和によって自由を享受してしまっている。
México libre de transgénicos: El Covid19 ha potenciado las malas prácticas de la agroindustria
http://www.biodiversidadla.org/Documentos/Mexico-libre-de-transgenicos-El-Covid19-ha-potenciado-las-malas-practicas-de-la-agroindustria

(5) La Via Campesina Mexico issues letter in defense of seeds and peasant and indigenous agriculture
https://viacampesina.org/en/la-via-campesina-mexico-issues-letter-in-defense-of-seeds-and-peasant-and-indigenous-agriculture/

(6) Organizaciones antitransgénicos buscan sumar firmas para ampliar ley de moratoria
http://www.biodiversidadla.org/Noticias/Organizaciones-antitransgenicos-buscan-sumar-firmas-para-ampliar-ley-de-moratoria

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