登録品種の自家増殖を禁止する種苗法改定に注目が集まりつつあるが、この動きが海外にもたらす影響についてはまだ十分知られていない。それはアジアや世界の農家の種子の権利をも制限しようとしている。
SwissAidやPublic Eyeなどスイスの市民団体は「種子への権利へのスイス連合(the Swiss Coalition for the Right to Seed)」というキャンペーンを始め、「種子の独占:スイス政府が飢餓を促進する」というアニメーション・ビデオで警鐘を鳴らしている(英語2分27秒)。
Seed Monopolies: How Switzerland promotes hunger
ビデオで語られるのは以下のようなストーリー(字幕がないので概略をまとめる)。
「種子は世界の農業の基礎。インドネシアのソリアニさんも自分の家族を養うのに、家計のために、多様な種子を作ってきた。だけど、この種子のシステムが今、危機に曝されている。なぜならば多国籍企業の新品種種苗の知的所有権を守るために少数の先進国が作ってしまった国際条約UPOV1991をスイス政府がインドネシアなど発展途上国に押しつけようとしているからだ。多国籍企業はこれで利益を得て、ソリアニさんのような農民は生存を脅かされる。なぜならソリアニさんは種子へのアクセスが困難になり、畑で採れた種子は売れなくなり、基本的な権利も多様性も失われてしまう。こんなことを許してはいけません。スイス政府はUPOV1991に基づく新品種保護を自由貿易交渉で求めることをやめるべきです。発展途上国が自分たちの種苗政策を自由に決定できるようにすることが重要です。なぜならそれらの国の食料保障、日々の生活はソリアニさんのように農場で採れた種子に依存しているからです。」
ここのスイスを日本に言い換えてもそのまま通じる。いやスイス以上に日本政府は特にインドネシアには強い圧力をかけ続けているだろう。日本政府は種苗法改定とセットでアジアなどで新品種保護を徹底させるために10億円近い予算を計上している。
UPOV1991年条約は先進国の種苗企業などのロビー活動で作られ、新品種の知的所有権を守ることを批准国に求めるもの。TPPについてモンサントなどが作るロビー団体BIOもこの条約の批准と厳格な履行を参加国に求める要求を米国通商代表部に提出しており、この動きは日本での種子法廃止、種苗法改悪にもつながるものであろう。日本政府は1998年の批准以降、UPOV1991の厳格化に向けて、動き続けてきた。
結局、アジア諸国の農民の種子を奪うことは結局、国内の農家の種子を奪うことにもつながっている。同じ貨幣の表と裏。
こうして種子を奪うことで多様性が失われ、気候変動にも弱くなり、世界の食料保障はさらに脅かされることになることは間違いないだろう。あと30年以内に大量絶滅期が迫っているという現在、少数の多国籍企業の利益のためにではなくて、農業の生物多様性と小農の権利を守ることこそ緊急課題である。
日本政府は種苗法の改定、およびRCEPなど多国間あるいは二国間自由貿易協定において相手国にUPOV1991の押しつけをやめ、在来種保護・育成と小農の権利保護に向けて動くべき。
参考:
インドネシアでは2005年から2010年までに14人の農民が逮捕されている。
http://api.or.id/pers-release-koalisi-kedaulatan-benih-petani/
これまでにも日本との自由貿易協定で種苗法が改正され、2019年9月にはさらに自家採種の権利を制限しかねない種苗法改正が行われている。急速に農家の多様な種子が消えようとしている。