非常に落胆せざるをえないニュース。ブラジル政府の国家バイオセキュリティ技術委員会(CTNBio)は6月8日に遺伝子組み換えサトウキビの商業栽培を世界で初めて承認した。
ブラジルは世界の砂糖輸出の4割を超すシェアを占める最大のプレーヤーだ。ここで遺伝子組み換えサトウキビを作ることは世界に大きな影響を与えざるをえないだろう。承認された遺伝子組み換えサトウキビは根食い虫であるDiatraea saccharalisを殺すBt毒素を生成する。要するに虫が食べたら虫がすぐ死ぬように遺伝子組み換えされたものを人間が食べるという話し。
米国の砂糖の主原料、甜菜がほとんど遺伝子組み換えになってしまった。だから米国で遺伝子組み換えを避ける消費者はサトウキビから作られる砂糖を求めていた。もし、サトウキビにまで遺伝子組み換えが広がったら安全な砂糖は何に求めればいいのだろうか?
サトウキビは沖縄などで作られているが砂糖の輸入は砂糖国内需要の9割に達している。輸入の半分以上をタイから輸入し、オーストラリア、グアテマラと合わせた3カ国から99%となり、ブラジル産は幅を効かせていないが対岸の火事の見物というわけにはもちろん、いかない。ブラジルは世界約150カ国に砂糖を輸出しているが、その6割の国々は特に遺伝子組み換えの承認プロセスを持っていない。開発したブラジル企業CTCは米国とカナダに遺伝子組み換えトウモロコシの承認を求め、中国、インド、日本、ロシア、韓国、インドネシアにも承認を求めていくと言ったという(まぁロシアは承認しないだろうが)。
ブラジルでサトウキビ産業は少し前は斜陽だった。奴隷労働が頻繁に発見される過酷な労働の代名詞。このサトウキビ産業にブームが訪れるのがバイオ燃料ブーム。サトウキビからエタノールを作ることに拍車がかかり、衰えかけたサトウキビ畑が復活する。さらに、現在、それが加速しつつある。拍車をかける原因は合成生物学だ。究極の遺伝子組み換えと言われる合成生物学はコンピュータなどでDNAを設計した合成生物を作り出す技術。すでに自己増殖する藻が作られ、その藻がバニラ、さまざまオイルなどを作り出しており、それを使った製品が規制もされずに市場に出ているという。
この合成生物を維持・繁殖させるために、餌としてサトウキビが必要になる。現在、この合成生物学を使った産業は巨額の資金を集めており、その資金で広大なサトウキビ畑がブラジルなどで買収されているという。こうした動きが今回の遺伝子組み換えトウモロコシといっしょになる可能性があると思う。消費者が遺伝子組み換えサトウキビを拒否しても、合成生物学産業がそれを買い上げる。またバイオエタノール産業も拒絶しないだろう。消費者が拒絶したらたとえばじゃがいももりんごも作れなくなる。しかし、サトウキビの場合はあまりにバイヤーが産業化され過ぎていて(工業原料化しすぎていて)、消費者の力が矮小化されてしまう。
消費者の懸念とは無縁に遺伝子組み換えトウモロコシが広がってしまう危険がある。Bt毒素はオリジナルのBtが自然物であったとしても遺伝子組み換えサトウキビで作られるものは人工的な毒物であり、分解されない殺虫剤だ。それが広大な農地にばらまかれることによって、生態系に与える影響は甚大なことになるだろう。ブラジルのサトウキビ畑の規模は1000万ヘクタールだ。日本の農地の2.5倍弱になるだろうか。
そしてサトウキビのモノカルチャーの拡大は小規模家族農業のさらなる圧迫を生むだろう。サトウキビ・プランテーションは面積に比べ、わずかな職しか提供しない。
ブラジルのビールは地ビールを除けばほとんど遺伝子組み換えになってしまったと言われる。だからブラジルに行ったら、カシャーサ(ピンガ)を飲むしかない。カシャーサはサトウキビで作ったラム酒だ。いきなりカシャーサを作るサトウキビまでが遺伝子組み換えが幅を効かすことにはならないと思うが、もしそうなったら、ブラジルに行ったら飲める酒がなくなる。酒がなければ生きられないものにとって地獄の国になってしまう。あぁ…。
Brasil aprova 1ª cana transgênica no mundo, diz CTC
Brazil approves world’s first commercial GM sugarcane: developer CTC