遺伝子組み換えユーカリ反対国際署名

「緑の砂漠」という言葉がある。ブラジルではユーカリの植林をそのように呼ぶ。本来、世界でもっとも生物多様性に富む自然にユーカリ大規模植林を持ち込むとそこで生きられる生物の種類や数が激減する。そして水も奪われ、その地域で生きられる人の数も減少し、外見だけは緑だが、その現実は砂漠以外の何ものでもない、というものなのだ。
 実はこの大規模植林、日本のODAが絡んでいる。ブラジルで軍事独裁が厳しかった74年、JICAはブラジル軍事政権と大規模なユーカリ植林を含む紙パルプ生産プロジェクトを始めた。土地の権利を証明できない小農の土地は奪われ、緑豊かな地域はあっという間にユーカリ植林に返られたが、ユーカリ植林は不定期でわずかな職しか提供しない。水資源は枯れていき、農業生産も苦しめられた。そして撒かれる農薬で地域が広範に汚染されていく。そして紙パルプ工場が排出する汚染物質。周辺住民にはがんが多発するも、声を上げることすらままならぬ環境。これが僕が見た90年代前半の状況だった。その状況はブラジル在住の映像作家岡村淳氏が番組にまとめられた(1994年)。


 
 ユーカリは他の植生が生きられない毒素を土壌に残すので、ユーカリ植林の周辺では他の植生は抑制される。しかも水を吸う力が強いので、ユーカリを大量に植えてしまうと、その地域の水源が打撃を受ける。番組の中ではユーカリによって消えた湖の姿が紹介されている。そして、ユーカリの葉もまた有毒な成分が含まれ、それに対応できるのはコアラなど限られた生物に限られる。オーストラリアの自然で自生するユーカリは別として、豊かな生物多様性のある地域で持ち込むべきものでは決してないが、植え付けからわずかな期間で伐採できるため、製紙会社にとっては効率的な原料供給源となり、大規模植林が南米を含む南の地域で行われている。
 
 このユーカリ植林の拡大に歯止めがかからない。これが食品になるのなら、消費者も反対の声を上げるが、紙パルプだと関心は薄くなる。ユーカリ植林反対の国際ネットワークを1992年、ブラジルで開かれた国連環境開発会議で提案したのだけど止める力を作れなかった。
 
 さらに、大問題が持ち上がっている。昨年、ブラジル政府はグリホサート耐性遺伝子組み換えユーカリを承認してしまった。このユーカリが大規模栽培されれば、グリホサートが広大な地域に散布されることになるのは確実である。栽培期間が短い大豆やトウモロコシと違って、数年に及ぶユーカリの場合、その環境に与える影響ははるかに大きくなる可能性がある。この遺伝子組み換え植林が世界大で広がる恐れが現実のものとなってきている。
 
 このブラジル政府の遺伝子組み換えユーカリ植林許可に対して、国際的な反対署名が始まり、日本では国際ボランティアセンター(JVC)が署名している。
 
Carta Pública de Denúncia do Eucalipto Transgênico da Suzano Papel e Celulose (英文翻訳あり)

Carta Pública de Denúncia do Eucalipto Transgênico da Suzano Papel e Celulose


 
 遠い南の世界の話ではない。私たちの使う紙のために南の人びとの生きる環境が壊されている。そして、遺伝子組み換え植林は日本でも研究が進み、植林が始まる可能性も十分ある。成長のさらに早いユーカリ、塩への耐性のある、あるいは寒い気候でも耐えられる遺伝子組み換えユーカリ、花粉を出さない遺伝子組み換え杉など。
 
 多くの生命が生きられる環境をそもそも考えていないこうした研究や企業活動が恐ろしい。国際署名(団体署名のみ)は現在も受け付けているので、団体で活動されている方はぜひ署名をご検討いただきたい。そして、こんな遺伝子組み換えの植林に覆われた地球にしないためにもこの問題をぜひ広く知らせていただきたい。

署名フォーム(ポルトガル語だけどオンライン翻訳で英語にすれば簡単)
https://greencloud.gn.apc.org/index.php/apps/forms/YXaoe994XgHN474P

参考

王子製紙、遺伝子組換えユーカリの野外実験をベトナムで実施中
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/0001/3642/

産業植林の発展と課題
─ブラジルにおけるパルプ企業植林の生産性向上の取り組み─
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij/73/8/73_73.709/_article/-char/ja/

耐冷性遺伝子組み換えユーカリ
https://www.biodic.go.jp/bch/download/lmo/public_comment/H25_07_25.yukari.ap.pdf

耐塩性遺伝子組み換えユーカリ
https://www.env.go.jp/info/iken/h170829a/a-2.pdf

分子育種によるユーカリ新品種の開発状況
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001206520438016

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