曲がり角にきたブラジル

 急激な経済成長を続けるブラジル。その姿の激変を10年前に誰が想像できただろうか?かつての債務大国は今やアフリカ開発のリーダーになりつつあり、開発援助国に変身した。かつては石油輸入国。今や、プレソルト層という深い地層からの海底油田開発で一挙に巨大産油国になろうとしている。製糖産業とともに衰退すると思われていたサトウキビ農園は今や遺伝子組み換えを駆使したバイオ燃料を世界に輸出する生産拠点になろうとしている。

 外交的にも米国との関係を保ちつつも、イラン外交やアフリカ外交では独自性を見せ、エイズ対策や反飢餓政策では発展途上国のリーダーの1つになった。

 国内の反貧困政策では家族支援プログラムを実施。乳幼児死亡率を激減させ、貧困層の生活向上を成功させており、支持率は今年5月の段階で70%を超えている。任期満了が近い政権でこのような高い支持率を得ている政権はまれではないだろうか?

深刻化する環境問題、地方の搾取

 しかし、この高い支持率と経済成長の陰で、深刻な問題が進行しつつある。それは都市から離れた地方から見ればよりくっきり見えてくる。

 2つの問題を挙げてみよう。1つはベロモンチダム開発、もう1つは森林法の改訂である。前者は東アマゾンの奥地に世界第3位となる巨大ダムと水力発電所を作るという30年前の軍事独裁政権時代に作られた計画だが、先住民族の強い反対のもと、建設は阻止されてきた。1989年にはスティングと先住民族の世界的な反対運動にまで発展している。 

 ブラジルでは大規模停電が頻繁に起き、成長を支えるためと称して大規模な発電計画が出されている。ベロモンチダムはその目玉。ベロモンチダム計画の有効性には専門家からも疑義が表明され、映画『アバター』の監督ジェームズ・キャメロンもベロモンチダム反対運動に参加。それにも関わらずルラ政権はダム建設を強行する構えだ。建設が強行されれば、それでなくとも破壊の進む東アマゾンに大きな影響を与え、先住民族の生存を危うくすることは避けられないとみられている。しかも、それを進めるのが軍事独裁政権や反動地主層ではなく、労働者党政権なのである。

アマゾン森林を危機においやる森林法改訂

 さらに森林法改訂である。1965年に制定された森林法は水源などの保護林の規定を持ち、これまでブラジルの森林を開発から守る憲法のような存在であった。この森林法の規定を大幅に緩和する改訂案が昨年出され、今年の7月に委員会通過。この改訂が利するのはアグリビジネスだけだと、MST(土地なし地方労働者運動)や環境団体、先住民族の支援団体をはじめとするNGOは連携して反対運動を展開したが、この法案を提案したのはなんとブラジル共産党(PCdoB。もう1つのブラジル共産党PCBは反対)。労働者党は党としては反対の立場を取ったが、議会をコントロールする大地主層に押し切られてしまった。

 アマゾンの破壊は大きな気候変動をもたらす危険があり、この森林法改訂は地球大に大きな影響を与える可能性がある。

 今年10月、ブラジルは大統領選を含む総選挙がある。しかし、ベロモンチダムの問題や森林法改訂の問題は争点になりにくい。先住民族は2億近いブラジル人口の20万〜30万を占めるにすぎず、これまで彼らと共にいた労働者党政権は現在は敵対的。森林破壊で脅威にさらされる地方労働者や小農民の声もまた届きにくい。先住民族や森林保護を掲げる緑の党で元労働者党政権環境相マリーナ・シウバ大統領候補は労働者党の候補に大きく離されている。労働者党政権の実現で世界的に注目されたブラジルの民衆運動は大きな難問にぶちあたっている。

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