今後、遺伝子組み換えウイルスに警戒しなければならない時代になってくるかもしれない。
何で出てくるかというと、これまでの遺伝子組み換え作物は作るのに時間がかかる。これを昆虫を使ってこの遺伝子組み換えウイルスをゲノム編集で作り、それを使って既存の作物にウイルスを感染させ、その作物の染色体を変えてしまう。つまり遺伝子組み換え品種のスピードアップを狙う。
遺伝子組み換えウイルスはこれ以外にも開発中。
今後、深刻化する抗生物質耐性菌。あらゆる薬が効かないと言われる耐性菌。この脅威は2050年にはガンを超え、人類最大の死因になると見られている。新たな薬を開発しても、それに病原菌が耐性を獲得する時間が短く、対応できない。
そこで考えられているのが耐性菌を殺すウイルスを遺伝子組み換えで作り、それを患者に注入する。抗生物質と異なり、特定の菌にしか作用しないから安全だと称している。
しかし、このウイルスの環境中への放出は生態系にとってきわめて危険な結果をもたらす可能性がある。
遺伝子組み換えウイルスを推進する側は、生物がウイルスによってどんどん遺伝子を組み換えられてきた、と主張するだろう。確かに生命はウイルスや細菌などの微生物がその基盤にある。細菌が他の細菌を取り込まなかったら生命は進化しなかったし、人類も生まれてきていない。ミトコンドリアも元は独立した細菌だった。そのミトコンドリアが他の細菌に取り込まれてその生命の一部となることで生命は大きなエネルギーを得ることができるようになった。細菌(遺伝子)の取り込み、そして「共生」。ここに確かに生命の進化の鍵がある。
その後もウイルスや細菌はさまざまな生命に感染し、その遺伝子を変えている。だから遺伝子組み換えされたウイルスを使ってさまざまな作物の遺伝子を変えることも自然なことなのだ、と推進側は言うだろう。
しかし、ここには決定的に大きな違いがあることを見落としてはいけない。生命体はウイルスや細菌のなすがままになってきたわけではない。感染によって命を落とすこともある。一方、感染に対する防御の仕組みを生命体は同時に構築してきた。
現在、開発されようとしている遺伝子組み換えウイルスはこうした防御の仕組みをすりぬけ、感染を強制させる。遺伝子を強制的に書き換える。
ミトコンドリアもそうだが、シアノバクテリアが取り込まれて藻や植物が生まれてきたような「共生」がどのようにして生まれたのか、まだ十分解明されてはいない。そこにはきわめて微細なプロセスが働いたのだろうと思う。それは遺伝子組み換えウイルスで強制的に書き換えてしまえ、というような乱暴なやり方では決して説明がつかないだろう。
「共生」と「強制」は決して同じではない。そして、ビル・ゲイツに遺伝子の組み換えを強制させられる筋合いはない。科学が本当に探求すべきはそんなことではないはずだ。
そしてそもそもこうしたものに必要性はあるだろうか?
まず、そもそも遺伝子組み換え作物が必要か? 世界では有機農業が飛躍的に伸びている。気候破壊・生態系破壊を止めるためにはこの有機農業・アグロエコロジーをさらに拡大しなければならないと言われているのに、この遺伝子組み換えウイルスはこれまで生態系を壊し、気候破壊を進めてきた化学農業の延長線。
そして、耐性菌もまた、遺伝子組み換え農業と集約的畜産という工業的食のシステムが拡大させてきたもの。拡大させる要因を規制せずに、ウイルスで対抗というのはマッチポンプでしかない。到底、解決には至らないだろう。
この技術に金を出しているのはビル・ゲイツ財団、米軍の研究所DARPAなどであり、そして行き着く先はバイオ兵器、戦争の道具になってしまうかもしれない。問題は個人でも作れる兵器になりかねないことだろう。国防省の関心もその対応だというのだが。
大元の問題を解決しようとせずに、生み出される問題を次から次へとつぎはぎだらけの技術が登場し、新たな問題を生んでいく。この悪循環そのものを止めなければ、気候崩壊・生態系崩壊はさらに進んでしまうだろう。自然の力を理解し、それを生かす方向へ、科学も産業も社会も進まなければならない。
昆虫に作物の遺伝子組み換えをさせるThe Insect Allies program(昆虫同盟計画?)
The Insect Allies program – genetically modified viruses in agriculture
解説記事(英語)
耐性菌関連情報はまた後ほど