最悪の「ゲノム編集」、遺伝子ドライブのモラトリアムを!

 30年後に地球の100万種の生物が絶滅することが懸念されているが、それを止めるどころか早めてしまう可能性がある。生物を絶滅する技術が完成しているからだ。それを遺伝子ドライブという。
 「ゲノム編集」は現在の遺伝子研究の上で不可欠な技術と言えるが、これを使った生命体を環境に放出すること、品種改良に利用することは、宣伝されるほど正確で安全なものとはほど遠い可能性が高いことをこれまで何度も書いてきた。その「ゲノム編集」の最も最悪な形態がこの遺伝子ドライブ。これはバイオ兵器、テロの道具にも使われかねず、全世界で禁止し、拘束力のある条約を求めようという動きが始まった(1)。

 どういうものか簡単に説明すると、生物は有性生殖の場合はオスメスのどちらかが突然変異してしまっても、その遺伝子が子どもに伝わる確率は半分。さらにその孫に伝わる可能性は4分の1、というように突然変異を押さえて遺伝情報を守ることができるようになっている。もちろん、ウイルスなどによる水平遺伝も起こりえるが、そのウイルスによる乗っ取りに対する防衛機能も備わっている。中には有用な変異が起きる場合もあるが、遺伝情報が急激に書き換えられてしまうのはリスクの方が多い。そうやって生命の遺伝情報は守られている。


図:突然変異した遺伝子情報は世代を追うごとに減っていく。

 最近、農薬の使用によってカエルやトンボなど蚊の天敵が激減してしまい、蚊が大量発生して、マラリア、デング熱、ジカ熱など蚊によって媒介される感染病によって命を落とすケースが激増している。こうした事態に対して、生まれた幼虫がすぐ死ぬように遺伝子組み換えしたオスの蚊を大量に放って、自然界のメスと交配させ、蚊の数を減らすというオキシテック社の遺伝子組み換え蚊が導入され始めた。しかし、これは大きな失敗に終わっている。遺伝子組み換え蚊の幼虫は100%死ぬのではなく、またその遺伝子が反映されるのは半分以下となり、100万匹を放っても、膨大な自然界の蚊の前には歯が立たない。数は減らず、事態はむしろ悪化しているとさえ言われている。

 しかし、遺伝子ドライブの場合は、「ゲノム編集」された側の遺伝子は受精後、配偶者の遺伝子の「ゲノム編集」を始める。


遺伝子ドライブに組み込まれる配偶者の遺伝子を「ゲノム編集」する遺伝子


配偶者の遺伝子を「ゲノム編集する」遺伝子


Cas遺伝子が対象遺伝子を破壊


配偶者の遺伝子も書き換える

 その結果、その次の世代の遺伝子は100%「ゲノム編集」されたものとなってしまう。つまり、1匹でもその蚊を放てば、1世代、2世代とたつにつれ、通常は影響が減っていくはずなのに、逆に増えてゆき、やがて種全体の遺伝子情報を書き換えてしまうことができてしまう。


すべての次世代の遺伝子が書き換わる

 1つの種の遺伝子をすべて人間が変えてしまうことができることになる。特定の種を滅ぼしたり、たとえばこっそりとハチを絶滅させることも可能になる。いや人間を滅ぼすことも可能になる可能性もないとはいえない。

 こうした危険のある技術は監視して活用しないのは当然の話になると思うのだが、この技術を活用しようという動きが残念ながらある。蚊の他に、たとえば外来種が侵入して、生物保護地域の生態がおかしくなろうとしているとする。その外来種だけ駆除することは容易ではない。だから遺伝子ドライブを使ってその種だけ駆除しよう、という動きが起きてしまう可能性がある。一番、近いケースは先ほどの蚊のケースだろう。しかし、果たしてそのような場合でも遺伝子ドライブだけが唯一の対処方法であるとは考えがたい。
 そもそも蚊が大量発生してしまうのは天敵であるカエルやトンボなどが生存できない環境になってしまっていることが原因である。だから、まずはカエルやトンボが生きられる環境を取り戻すことこそが解決策であり、それ以外の方法は応急措置策にしかなりえない。応急措置策として遺伝子ドライブは決定的に適合しない。蚊といえども自然界の一部であり、それを絶滅させればもう取り戻すことはできなくなってしまう。ブレーキの効かない技術は使うべきではないからだ。

 日本でも琵琶湖に繁殖してしまった外来魚ブルーギルを「ゲノム編集」したものを放つことで絶滅させようという計画が進みつつあると報道されている。この「ゲノム編集」ブルーギルは遺伝子ドライブは使っていない、という(2)。それでもそうした「ゲノム編集」魚を自然界に放出することは取り返しのつかない結果を生む可能性があり、遺伝子ドライブを使わないからといって進めていいものか、ひじょうに疑問に思う。

 欧州議会はこの遺伝子ドライブ技術禁止(モラトリアム)すべきという判断を下したという。ドイツ政府も国レベルで禁止させ、国際的に禁止させようと動いている(3)。一方、推進側は解禁を狙ってくるだろう。極右政権に乗っ取られたブラジルは特に危ない。

 この遺伝子ドライブ技術の問題点をまとめたショートフィルムが作られた。英語と一部フランス語(英語字幕)だが、とてもわかりやすいものとなっているので、ぜひご覧いただきたい。

Gene Drive Film(15分2秒)

参考
(1) @SaveOurSeeds

(2) 国立研究開発法人 水産研究・教育機構 増養殖研究所: ゲノム編集で外来魚を駆除する技術開発 (PDF)

(3) 16th of January plenary vote: Motion for a resolution on the 15th meeting of the Conference of Parties (COP15) to the Convention on Biological Diversity
生物多様性条約締約国会議(COP15)で遺伝子ドライブのモラトリアムを求めるNGOの公開書簡(PDF)

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