みどりの食料システム戦略:みどりの政策とは何?

 パブコメ締め切り迫る「みどりの食料システム戦略」について、「みどり」とは何で、「食料システム」とは何を意味するのかが大問題になる。なぜ、昨年の11月18日に最初の検討会開いて、ほんのわずかな時間の間で、しかも従来の政策を覆すような計画が作られてしまったのだが、農薬村からは抵抗は聞かれない。
 住友化学などの企業の影響力は大きく、農薬の危険を訴える情報は農薬村に強く監視されていて、マスコミが出そうものならすぐに抗議文を送りつけられる。そんな国でなぜ農薬を5割も減らすという計画があっという間に了承を取れたのか、謎だろう。
 しかし、この戦略を細かく見ると、いろいろと抜け穴があることがわかる。農薬を5割減らすといっても物理的に農薬を5割減らすということにはなっていない。リスク換算で5割減らすということになっている。そしてこれまでの化学農薬に代わってRNA農薬(昆虫の細胞の中でのタンパク質の発現を変える、つまり遺伝子の働きを変える農薬)が開発され、そうした農薬が「安全」であるとされてしまえば、それらに移行すれば目標達成したことになってしまう。そして、もう1つ、スーパー品種の開発が柱となっており、「ゲノム編集」などのバイオテクノロジーが中軸を担うことになる。「みどり」と付いているけれども、通常連想する環境に配慮した技術ではなく、環境破壊につながる技術がいくつも踊っている。
 
 そもそもこの戦略はどこから来たのか? 結論を先に言えば、ビル・ゲイツであり、モンサント/バイエル、住友化学からだろう。
 まず、この動きは名前も日本の戦略とぴったり同じ、国連食料システムサミットの構想から始まっていると考えるのが自然だろう。このサミットのトップ、特別代表に据えられたのがアグネス・カリバタ(Agnes Kalibata)氏。彼女は元ルワンダ農業大臣で、ビル・ゲイツがアフリカに工業型農業を押しつけるために作ったアフリカ緑の革命同盟(Alliance for a Green Revolution in Africa、AGRA)の議長である。この国連食料システムサミットは国連事務総長アントニオ・グテーレスが2030年までに達成すべき目標として設定された持続可能な開発目標(SDGs)のための会議の1つとして招集されるが、まさにその会議が世界に遺伝子組み換え企業が理想とする工業型農業モデルを持ち込む機会にされようとしている。この人選に対して、83カ国の176の市民組織がグテーレス事務総長に撤回を求める公開書簡を2020年2月に、3月には550団体が送っている(1)。
 しかし、グテーレス事務総長はその求めに応じておらず、さらに国連FAO(食料農業機関)は10月2日にCropLifeとのパートナーシップを結んでいる。このCropLifeとはバイエル(モンサント)などの遺伝子組み換え企業4社、住友化学とFMC(米国の化学企業)の6社からなるロビー団体だ。こんな毒の同盟(Toxic Aliance)が国連FAOに影響力を行使するとなれば、これまで農薬や化学肥料に依存しない農業、アグロエコロジーを進めてきたFAOの政策が歪められるとして600の市民団体が撤回を求める公開書簡を送っている(2)。


 
 国連やFAOの方向性は2007年、2008年の世界食料危機を経て、劇的に改善された。2013年には世界の小農運動団体La Via Campesinaと提携して、農薬や化学肥料に頼らないアグロエコロジーの推進を決め、2014年は国際家族農業年として小規模家族農業を進める方向になった。飢餓をなくす国連の本来の目的にも合致し、国連総会の圧倒的多数も、国連開発計画、環境計画などさまざまな機関も一致してこの動きを支持した。世界の農民運動や環境保護運動も合流し、各国政府は化学肥料・農薬の使用削減政策を進め、遺伝子組み換えの拒否も強まり、巨大な動きへと発展した。
 これは工業型農業モデルを進めたい遺伝子組み換え企業や化学企業にとっては大きな脅威となる。この流れを覆すために彼らは作戦を練っていたのだろう。それがこのサミットの実現へと現れてきたことになる。
 残念ながらその動きに日本は官民共に深く関わっている。国連で食料政策の中軸となるFAOに最大の資金提供国はどこかというと、日本で日本は小規模農家や有機農業を重視するFAOの姿勢に強く圧力をかけてきたという話を聞く。予算で依存する米国や日本政府にグテーレス事務局長も抵抗できず押し切られているというのが現状ではないだろうか?
 
 そして、今回の「みどりの食料システム戦略」においても宣言している、「アジアモンスーン地域の持続的な食料システムの取組モデルとして、2021年9月開催予定の国連食料システムサミット等において、我が国から積極的に打ち出し、国際ルールメーキングに参画する」。つまり、国内だけでなく、国連の動きまで変えることを日本政府がわれわれの税金をつぎ込んでやろうということだ。それは私たち有権者の意思と言えるだろうか?
 「みどり」とは形だけの有機農業推進でオブラートに包み(2030年段階の目標では有機農地の目標割合はわずか1.57%でしかない)、実質的にみどりとは縁遠いバイオテクノロジーを国内で推進するための戦略であるばかりではなく、国連総会や世界の農民運動、市民運動の声を無視した動きを国際的に進めようというものと言わざるをえない。まったく極少数の企業の利益のために、世界の圧倒的多数が無視した動きが進められようとしている。


 
 果たしてどうすべきだろうか? 少なくとも12日のパブリックコメント締め切り前に、「みどり」とは相容れない「ゲノム編集」、RNA農薬開発など、世界に拡げるわけにいかない動きの削除を求めること、国連で世界にそうしたものを押しつけることを絶対許さない意志を伝えること。そして本当の意味での有機農業・アグロエコロジーの推進に立ち返ることを求めることをまず第一歩としたい。
 
 そして、その危険を少しでも多くの人たちに拡げてゆきたい。9月の国連食料システムサミットは世界の農民団体、市民団体はボイコットの意志を示している(3)。世界の人びととともに食や農を乗っ取ろうとするこうした動きに対して立ち上がる必要がある。

(1) Call to Revoke AGRA’s Agnes Kalibata as Special Envoy to 2021 UN Food Systems Summit
https://www.oaklandinstitute.org/revoke-agra-agnes-kalibata-special-envoy-2021-un-food-systems-summit

3月に送られた公開書簡。日本からはアフリカ日本協議会(AJF)の名前が見える。
https://www.foodsovereignty.org/wp-content/uploads/2020/03/EN_Edited_draft-letter-UN-food-systems-summit_070220.pdf

(2) Is FAO in the pocket of the pesticide industry? 日本からは日本消費者連盟の名前がある。
https://www.pan-uk.org/is-fao-in-the-pocket-of-the-pesticide-industry/

(3) Why civil society organisations will boycott the UN’s Food Systems Summit unless there is a radical redirection away from corporate interests
https://actionaid.org/opinions/2021/why-civil-society-organisations-will-boycott-uns-food-systems-summit-unless-there

添付のイラストはスイスの市民団体Public Eyesによるもので、CropLifeを構成するバイエル(モンサント)、住友化学などが製造販売している農薬の3分の1以上が健康や環境に極めて危険なものであることを批判している。
https://www.publiceye.ch/en/media-corner/press-releases/detail/pesticide-giants-make-billions-from-bee-harming-and-carcinogenic-chemicals

もう1つの画像は農水省の「みどりの食料システム戦略」の参考資料から
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/team1-105.pdf#page=42

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