みどりの食料システム戦略:公共政策の貧困

 期限が間近(12日)に迫った「みどりの食料システム戦略」の中間とりまとめのパブリックコメント。今後に大きな影響を与えることなので、しっかりと意見を表明する必要を感じる。コメントで書くことはまた別途、まとめるつもりだけれども、いくつかその前提となることを書いておきたい。

 まず、今回の戦略への違和感として、何を目指しているのか、なぜ目指しているのか、根本となる認識の曖昧さがある。あるいは現状認識の曖昧さだ。
 EUはグリーンディール政策を立てる理由として、気候変動と環境の悪化がヨーロッパや世界にとっての脅威であり、有機農業の拡大と化学農業の縮小による克服が必要不可欠だとする。それに対して、日本の戦略はこれらの危機を単なるリスクとして認識し、日本の農産物の付加価値をこの戦略で上げることが目標としている。この認識の差は決定的に大きい。克服すべき課題として、現在の危機が認識されていない。

 EUのグリーンディール政策には大きな欠陥があり(結局は資本主義的な成長戦略としてまとめられている)、全面賛同はできないのだが、気候変動や環境の悪化という根本的な危機意識は共有できる。ここから始まるしかない。日本の戦略ではこの現状認識が曖昧にされていることで、その計画も曖昧で、小手先の技術論に過度に依存している。根本的な認識ができていないことは最大の欠陥だと言わざるをえない。
 
 そして、この認識では付加価値の上がった「商品」を輸出するイノベーション可能な農家を作ることに重点が置かれることになってしまう。EUのグリーンディール政策では誰一人取り残さないことが強調される社会政策となっていることとまったく似ても似つかない、選ばれたエリートを作る政策になってしまい、格差拡大に落ち込む欠陥を持っている。環境危機を乗り越えるためには誰一人取り残さず、全体が変わらなければならないにもかかわらず、そうした政策になっていない。
 
 食の政策は基本的に命に関わる根本的な社会政策であるにも関わらず、社会政策が切り離されてしまっている。本来、食が持つ機能は人の命を支え、地域を支える公共性のきわめて高いものである。しかし戦後の日本の食料政策は米国からの農産物を大量に買うことを前提に組み上げられ、本来、占領時代を終えたら克服すべき政策が未だに続いている。そのため社会政策としての食の政策が実行できない、農業振興政策は地域での社会政策になっていかない。こんな現実を無意識に市民社会も前提として、食の問題を基本的人権の問題として取り組む団体はきわめて少数という現実にもなっている。日米安保とは基地の問題だけではない。食にも見えない安保問題が存在している。だから食から変える必要があるのだ。
 
 こうして、日本の農業振興政策とは農産物輸出政策となり、誰一人取り残さないどころか、真逆の政策となってしまう。輸出できない農家は切り捨てる政策になる。これでは農村は守れない。環境崩壊も防げない。そして、飢餓で苦しむ人が出ても救うことができない国になりつつある。
 
 もちろん、この「みどりの食料システム戦略」を叩いて潰すことが目的ではない。今の日本の政策を大きく変えなければならない。この戦略でも不十分ではあるが、国際的な情勢に伴って、日本も変わることが求められる状況になっていることを見逃してはならないだろう。どう変えるか?
 
 真に誰一人取り残さない、環境の危機から守る政策へと変えていくことだろう。何度も書いているように、今、世界で有機農業を拡大させる政策の背後には「公共調達」、つまり国や地方自治体が有機農産物を買い上げるという施策が存在する。有機農業・アグロエコロジーを本格的に日本社会の基盤としていくためにはまず火付け役としての公共調達政策が不可欠だろう。そして、それは市町村から始まる。
 収入が厳しくて有機食材を変えない家庭でも子どもたちがまず食べられる。そしてそれが病院などに拡がり、生産が拡大していくことで、市場にも拡がっていくことが期待できる。最初のとっかかりこそが学校給食になる。
 
 社会的格差が広がり、特に貧困層での加工食品依存が増えることによって、さらに慢性疾患が急増していく可能性も高まっている。ブラジルでも反飢餓キャンペーンからアグロエコロジーの必要性が訴えられてきた。有機食品は金持ちのためのものでは決してなく、すべての人が得られるものにしなければならない。
 

 現在の日本政府の姿勢は有機農業を拡げるためには市場を拡げる、市場を拡げるためには消費者を啓蒙する、となっている。こんな市場原理主義に立つから、日本だけ有機農業は拡がってこなかった。買いたくても売っていない、食べたくても買えない現実を放置して、啓蒙するというのは人を馬鹿にした話で、しかし、その啓蒙に少なからぬ予算が使われてしまう。こんな政策だから、世界のパイオニアの1つであった日本は周辺アジア諸国にも抜かれて、今や世界100位前後となっている。政策の欠如が日本を貧困な国に変えてしまっている。この事態を変えるにはやはり公共調達で有機農産物を買い上げる計画を立てることが必須となる。
 
 この戦略の「みどり」が全然みどりでないものをカモフラージュすることになっていることについては先日も書いた。日本政府は国連食料システムサミットでバイオテクノロジー企業のトロイの木馬、あやつり人形になりかねない。長くなるのでそれはまた別途、考えたい。

「みどりの食料システム戦略」中間取りまとめについてのパブリックコメントはこちらから
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550003303&Mode=0

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