2024年の振り返り。世界では2020年〜2024年にかけて有機農業バッシングが猛威を振るった。でも、世界ではそのバッシングの中でも有機農業はがっしり根をはり、バッシングを跳ね返しつつある。光が見えたのが2024年だったかもしれない。
一方、来年以降、周回遅れの有機農業バッシングが日本を襲う可能性が高いと危惧する。有機農業は気候危機、生物絶滅危機などの多重危機の不可欠な解決策。どう攻撃から守れるか、世界の動きから考えてみたい。
世界での有機農業はこの20年間、飛躍的な拡大・深化を見せた。各国での広がり、ラテンアメリカでの広がりは著しく、国連も2013/2014年にアグロエコロジー推進に舵を切り、世界各国政府はこぞって本格的な有機農業推進政策を取り始めることになった。こうして世界大の動きとなっていった。
この動きにもっとも過剰に反応してきたのが遺伝子組み換え企業を筆頭とするアグリビジネスの寡占企業だ。遺伝子組み換え作物耕作面積は2015年に開始以来初めて前年比を下回り、その後停滞を余儀なくされている。しかし、彼らもただ手をこまねいているわけではなく、大反動攻勢を準備していた。
世界で有機農業バッシングが形を見せ始めたのは2020年前後から。パンデミックによる穀物貿易の混乱や、ウクライナへの戦争による穀物高騰などを受け、遺伝子組み換え企業4大メジャーの一つ、シンジェンタのCEOは有機農業を攻撃し、世界で有機農業を推進すれば世界が飢えるとして、遺伝子組み換え・農薬を軸にした農業の推進を訴えた。しかし、彼が主張する農業こそが世界に飢えをもたらしている大きな原因なのだが。
2020年、4大遺伝子組み換え企業や住友化学など6社が作るロビー団体CropLifeは国連FAOの買収に成功した。2021年には国連の食料システムサミットが開かれたが、この国連会議はこれまでの国連のあり方とは明らかに異なるものに変わっていた。国連では議題の設定や会議の運営について、市民団体も声を上げることができたのだが、この食料システムサミットの準備過程では市民団体は一切排除された。多国籍企業が議題設定も会議の参加も仕切り、企業の、企業による、企業のための場に変わってしまった。それまでの国連の小規模家族農業、アグロエコロジー推進政策に対して、企業のための食のシステムを世界大で広げることに変えようとした動きと言えるだろう。この期間、「ゲノム編集」食品、細胞培養肉などの細胞性食品、合成生物学を使った食品も大いに推進された。
米国のグリーン・ニューディール政策も大幅後退し、欧州のグリーンニューディールはネオリベラル的に変質し、農家の負担に過重な負担がかかることになった。それに対して、農民による大規模な抗議活動が2024年、欧州各国で展開された。その動きを、「ヨーロッパでは農民が有機農業に反対」と日本では報道されることもあった。しかし、それは実際には農家の生存を顧みない新自由主義的なルールの押しつけに対する抗議活動というべきであっただろう。
ブラジルではSNSの情報操作とルラ大統領候補の拘禁によって、極右ボルソナロ政権が2019年に成立。それまでのアグロエコロジー・有機農業推進政策を根絶やしにして、大量の農薬を承認、憲法違反となる先住民族の土地を含むアマゾン地域の開発も促し、有機農業・アグロエコロジーは冬の時代に突入した。
しかし、有機農業・アグロエコロジー運動はその前に、すでに世界各地で根を張っており、この猛威に打撃を受けるも、もちこたえることができた。2020年10月に結ばれたCropLifeとFAOのパートナーシップ契約は今年6月に破棄された。ブラジルでもボルソナロ政権は敗退し、ルラ新政権の元でアグロエコロジー・有機農業推進政策は復活を遂げた。
「ゲノム編集」食品はEUで抵抗が続き、細胞性食品のベンチャー企業は相次いで破綻、バイオテクノロジーによる食は停滞する一方、有機農産物市場の伸びは世界で著しい。この動向を見れば世界では勝負はあったと言える。
もっとも、この世界で猛威を振るった有機農業バッシング、周回遅れで日本にやってきそうだ。果たして、日本はその攻撃に耐えられるだろうか? 政府の有機農業推進政策には多くの欠陥がある。初めからうまくいかないように仕組まれた政策と言いたくなるくらいだ。その政策的欠陥を是正することなく、攻撃を真正面から受けたら、長年取り組んできた農家は別として、その推進政策はひとたまりもなくなってしまうだろう。
長くなってしまったので、その問題点については今後、まとめていきたいと思うが、食の根本政策の位置づけの不在、タネの政策の欠如、有機認証のあり方の問題、そして社会の中の家父長的な関係の歪みと分断が本質的な有機農業・アグロエコロジーの展開を困難にしていることをどう克服していくか、など課題は多岐にわたっていると思っている。
そして、2024年の振り返りの締め括りは2025年に何をするかで閉めたい。2025年に本にまとめる。以上