セラード開発プロジェクトとモザンビークのProSAVANA

セラード開発は日本では「奇跡の成功」などと言われる。確かに入植者を拒んできた厳しい自然に打ち勝って大規模農業を発展させたということは事実だし、この間の穀物生産高でその成果を図るのであれば、それは確かに成功だったと言えるだろう。

しかし、ブラジルの公共放送TV Brasilが生態系の危機から今はこの農業モデルを再考する時だ、と言っている(前記事参照)。また社会的な開発という面でも大きな問題を抱えている。単に生産高という数値だけではなく、環境、社会、そして人びとの自然の未来というもっと包括的な観点から見直すことが求められている。残念ながらJICA周辺では今なおセラード開発=奇跡の開発として礼賛一色であり、その見直しをする気配すら感じられない。すでに終わった開発計画であるならともかく、この開発モデルが今、モザンビークで使われようとしているという。そこでここで再度問題を提起しておきたい。

15日に行われたセミナー(モザンビークでのJICA熱帯サバンナ農業開発プログラム市民社会との勉強会)ではJICAの担当者はProSavanaに関して「inclusiveな開発」という言葉を多用した。社会的にマージナルな位置にいる人を排除せずに包括的に社会開発をするという意味であり、とても重要な観点だ。本当にinclusiveな開発を自然環境にも配慮して行うのであれば大賛成である。それを実現するためにはフィールド調査、人びととの具体的な関係作りに基づく、現地社会についての深い理解が不可欠であるし、プロジェクトをそうした人びとの参加によって実施する必要がある。

しかし、そうした一番肝心な部分はJICAの担当者によるとモザンビーク政府まかせという話だった。開発独裁的色彩を強めるモザンビーク政府を通じて、どうやってinclusiveな開発を行うのか、どうモニターするのか、そうした面も具体的な方策も示されていなかった。

JICAの担当者はブラジルのセラード開発プロジェクトをそのままモザンビークに持ち込むのではない、とするが、そのままではないとすると、どこをどう変えるのかが問題となる。

実際にProSAVANAのモデルとされるセラード開発を批判的に検証する作業はどうしても必要になってくるだろう。

ここにトカンチンス連邦大学の第3期セラード開発プロジェクト(PRODECERIII,1994〜1999)の社会調査がある。
ANÁLISE DA EFETIVIDADE SOCIOECONÔMICA DO PRODECER III NO MUNICÍPIO DE PEDRO AFONSO, TOCANTINS (トカンチンス州ペドロ・アフォンソ市でのPRODECER IIIの社会経済的効果性の分析、要約のみ英語、本文はポルトガル語)
ここではセラード開発プロジェクトは地域に経済発展をもたらしたもの、貧富の格差を拡大し、社会的な排除を作り出した。コストがひじょうに高く、その高いコストの割に社会的雇用は作り出していないと批判的に分析している。第3期のプロジェクトであるから初期の混乱とは異なり、しかも軍事独裁時代もとっくに終わっており、社会的参加を得ながらinclusiveな開発が一番できる状況が整っているはずなのにも関わらず、トカンチンス連邦大学の研究者の目、あるいは彼らが聞き取り調査した人びとの目にはセラード開発プロジェクトはinclusiveな開発にはなっていなかった。JICAの出版物では異なるストーリーが描かれているのだが、現実は違う。

セラード開発プロジェクトではセラード地域の住民ではなく、地域外部の農民を入植させている。伝統的住民はその恩恵にはあずかっていない。むしろさまざまな開発に伴い、土地を失うケースが多い。その不利益を起こさせない配慮が必要だったのだが。ブラジルは大きな国だがセラード地域とその外では文化も人種も違う。要するにセラード開発とは現地の住民を排除した植民計画と言った方がいいだろう。軍事独裁時代も今も、都市から離れた農村地域は大地主の力がひじょうに強く、批判的なことをいえば殺されるという恐怖を感じる人は今なお少なくない。そのような状況の中では残念ながら現地の住民の声はかき消されてしまう。

援助がその地域の人びとの決定権、生活する力のエンパワーとならないのであればこれは援助とよぶにはあたらない。PRODECERの場合もProSAVANAの場合も地域住民の内在的な発展という要素はほとんど無視されている。JICAはこのProSAVANAが日本ーブラジルーモザンビークの三者がWin-Win-Winになるというのだが、カーギルなどの穀物メジャーを気にせずにモザンビークで輸入できる大豆を確保したい日本の商社と、ブラジル人アグリビジネス・入植者、モザンビークの一部の利益をえる入植者にとってはWinなのかもしれないが、圧倒的多数のモザンビークの小農民、モザンビークの自然環境にとってはプラスのものをもたらしてくれると想像することは極めて困難だ。

国連世界食糧計画の飢餓地図2012 World Food Programme http://www.wfp.org/hunger/mapアフリカの飢餓問題は深刻である(国連世界食糧計画の飢餓地図参照[右])。しかし、その飢餓は人為的に作り出された飢餓であり、昔からアフリカが飢えていたわけではない。現在、農業フロンティアがブラジルでも消失しつつあり、今、世界のアグリビジネスがアフリカに殺到している。この状況の中ではアフリカの小農民の権利を正当に確保しなければ、どれだけの犠牲が生まれるかわからない、そうした極めて脆弱な状況が生み出されていることはもっと深刻に受け止めなければならないことだろう。

コントロール不能な事態になってから慌てても遅いのだ。ProSAVANAの再考を求めたい。

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