モンサントなどのバイオテクノロジー企業など1200の組織が構成するバイオテクノロジー産業団体(BIO)が米国通商代表部に向けて送られたTPPに関するコメントをニュージーランドの遺伝子組み換え問題に取り組む団体が公開した。
BIOの書簡はかなり前のもの(2009年3月11日)なのだが、バイオテクノロジー産業、遺伝子組み換え企業がTPPをどう利用しようとしているかを見る上でひじょうにわかりやすいものになっている。基本線は今なお変わっていないだろう。
BIOのメンバーは米国を中心としているものの、日本企業も参加している。日本から単独で参加している企業は外資系や日本の製薬企業が多いが、日本のバイオインダストリー協会もメンバーとなっており、この協会にはバイオテクに関連する日本のほとんどの企業が参加しているといってもいいのではないか。
ぜひ原文を一読されることをお勧めするが、気になった部分を紹介しておこう。
この書簡は、
- 農業バイオテクノロジー
- 知的所有権
の2つの章で構成されている。
遺伝子組み換えの普及を強制する
農業バイオテクノロジーの章では、遺伝子組み換え農作物(バイオテク農作物)を世界に広げるための諸策、そして米国で耕作されるGM作物の大部分は輸出向けであるため、諸外国政府がGM作物を支持させることが重要として、その対策を求めている。その中味は要約してしまえば
- TPP参加国がバイオテクノロジー農産物(GM農産物)を規制しないこと
- 遺伝子組み換え表示義務を課さないこと
- 各国政府が基準を勝手に決めるのではなく、バイオテクノロジー企業が影響力を持つ国際的な機関が定めた基準に従わせること
- すでに親系統の遺伝子組み換え形質が個々に承認済みの場合には新たな承認プロセスが不要であることを外国政府に承諾させること
- 外国政府がGM作物貿易を止める前に米国政府に事前に協議すること
これが実現してしまえばもはや諸外国政府の主権は独立したものとはいえなくなる。TPPは単なる貿易協定ではない、と批判されるが、上記の項目がTPPで実現されてしまうなら、TPPは各国の主権を否定し、バイオテクノロジー企業が世界を支配するための道具だというしかない。
バイオテク企業の知的所有権による支配を実現する
知的所有権にはもっと多くのスペースが使われている。
バイオテクノロジー企業の知的所有権には多くの疑念が向けられている。たとえば遺伝子組み換え大豆をモンサントは発明したことになっており、その知的所有権が認められ、モンサント社の大きな収益源となっている。しかし、モンサントは大豆を発明したのだろうか? いや大豆を発明したのは自然であり、モンサントではない。モンサントはそれを不自然に遺伝子を組み換えただけだ。それにも関わらず、その遺伝子組み換え大豆を発明したとしてその独占的利用の権利を認めてしまうことには批判が存在している。
すでに人類共有の財産として長いこと使われてきた遺伝資源を自らの資産として知的所有権を主張することに対して、その遺伝資源を長く使ってきた人びとの側からその遺伝子組み換え企業の行為を盗賊行為としてバイオパイラシーとして告発されているのだ。
しかし、バイオテクノロジー産業はこうした知的所有権を確固たるものとするために政府は国際機関にロビーを行っている。その1つの成果がUPOV1991条約だ。
ここでは批准国は新しい遺伝資源を作り出したものへの排他的知的所有権を遵守することが求められる。このUPOV1991が自由貿易交渉の中で世界各国に押しつけられていく。この条約を批准し、さらにその条約に基づく国内法で、農民が自分の種子を保存し、使うという伝統的な農法を犯罪として、種子は種子企業から買わなければならないとする法律が世界各国で成立しようとしている。
メキシコでも、コロンビアでも、ベネズエラでもチリでもこの法案はモンサント法案とよばれ、大きな反対運動を生み出した。コロンビアではいったん法律が成立してしまうが、全国的な反対運動のためコロンビア政府はこの法の施行を2年間凍結せざるをえなくなった。メキシコ、ベネズエラ、チリでは廃案となった。
しかし、BIOはこのコメントの中で、UPOV1991をはじめとする義務にTPP参加国が従うことを求めている。メキシコ、チリはこのモンサント法案を廃案にさせたのだが、TPP参加国でもある。TPP以外にも米国−EUで進むTTIPでも同じ姿勢が貫かれ、さらに二国間自由貿易協定でもこうした政策は世界各国に押しつけられている。
農民から種子を持つ権利を奪うのは決して必然ではない。かつて農民が自分たちの種子を農業の基本にしていた時代、世界にはひじょうに豊かな農業生物多様性があったと言われているが、種子企業の独占が進む中で、急速に多様性が奪われ、世界で75%の農業生物多様性が奪われたと言われている。農業の持続性、生物多様性にも大きな影響を及ぼすことへの懸念も高まっており、生物多様性条約の議論の中から、農民の種子の権利を守る必要性が世界的に認識されてきている。それは食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約の条項の中にも結実し、この条約はすでに129カ国が批准している。それに対して、UPOV1991条約は米国政府やバイオテク企業が強いているにも関わらず、わずか51カ国しか批准していない(2014年7月African Intellectual Property Organizationが加盟して、その時点で51の国あるいは組織)。
この状況をTPPなどを使って変えていこうというのがバイオテク企業の意図だと言えるだろう。
この他、このBIOのコメントでは医薬品やGM作物にかかる承認にかかる期間がバイオテク企業の負担になっており、ジェネリック製品に対する保護期間が不十分であるとして期間を長くすることを求め、さらに特許保護のためそのデータを公開しないことなどを求めている。これには多くのスペースが割かれており、重大な問題だと思うが、詳しくは原文を参照してほしい。
バイオテクノロジー企業が何をTPPに求めているか、このBIOのコメントは率直に語っている。それは農民や消費者から食・種子の選択の自由、食料主権を奪うことである。
原文:
Biotechnology Industry Organization (BIO)によるTPPに関する書簡
参考:
BIOに参加する企業のリスト BIOのWebサイト