南アフリカ、お前もか、という感じだが、南アフリカ議会で、農民の種子を奪う法律の改悪が進んでいる。育種権法と植物改良法の2つの改訂により、農民が歴史的に持ってきた権利、種子を保存し、他の農家と交換し、販売する権利が奪われるとして、アフリカ生物多様性センター(African Centre for Biodiversity、ACB)が法改悪に反対声明を上げた。
この2つの種子に関する法律の改悪により、南アフリカでは在来種の種子は自家消費用以外で利用すれば訴えられかねなくなる。歴史的に存在してきた農家の営みを犯罪視するこの法律改正案に対して、強い怒りと批判があがっているが、法案は何の修正も行われないまま委員会を5月22日に通過しているとのこと。
ラテンアメリカで、アフリカで農家のタネが奪われ、多国籍企業のタネが押しつけられる動きが止まらない。もう奪われるしかないのか、と思うと、アフリカ生物多様性センターは別の可能性を指し示す。それは参加型育種(Participatory Plant Breeding)と呼ばれる種子のシステム。種子の育種に地域の農家が参加し、それぞれの意見を反映させ、育種を行い、それを広げていくというもの。
参加型育種はすでにキューバなどで成功を収め、その成果に注目があつまり、ラテンアメリカはもちろん、世界各地に広がってきており、その有効性はすでに実証済み。企業の種子では多様性がなく、しかも農薬や化学肥料が不可欠なケースが多いが、地域で作られた種子は地域の条件に適しており、しかも多様で、地域の循環も作りだす。そうした種子のシステムを政府に採用させるという道がある。
写真はACBの作成した参加型育種をまとめたレポートから(直線的な企業型種子システムと異なり、参加型育種には循環がある)。従来の企業型の種子システムに対して、この参加型育種のメリットが説明されている。農家の種子の権利もこのシステムを生かせば守ることができるだろう。
実際に農家の種子、固定種(在来種)の種子を守る動きは本格化している。たとえばブラジル政府は2003年にグリオーロ種子条項を作り、伝統的農家が持つ種子の価値を認め、それを企業の種子システムとは別扱いすることで、その普及に乗り出している。韓国の慶尙南道は在来種農産物保存·育成に関する条例を2008年に作り、在来種の種子を守る政策に乗り出したと聞く。EUは現状では農家の種子の売買は禁止されている(売買のためには年間高額な登録料が必要となる)が、これによって有機農家は種子の交換はできても種子の販売ができない。ヨーロッパでは現在、有機農業・アグロエコロジーが急速に拡大しているが、肝心の種子に自由がないことがその成長を制約してしまっている。そこでEUは2021年から有機農家が種子を販売することを認める決定をしたという。
FAO(国際連合食糧農業機関)も2001年に農業及び食料のための植物遺伝資源条約を成立させ、その中で農家が持つ役割の大きさとその権利の重要性を強調している。
急激に進む国政レベルでの多国籍企業の公共財産の私物化の動きに対して、公共の富を守り、人びとの権利を守ろうという動きも世界で活発化している。この動きには大いに学ぶものが多いのではないだろうか?
南アフリカの国会の委員会における種子関連法の決定に対するACBの抗議声明
Parliamentary consultation & decision making on SA’s Corporate Seed Bills a Sham!!
ACBによる参加型育種についてのレポート
A review of participatory plant breeding and lessons for African seed and food sovereignty movements
多国籍企業の種子のシステムの押しつけにどう抵抗するか、示唆に富むレポート
Resisting Corporate Seed Laws in South Africa