日伯経済連携協定(EPA)に反対する

 日本政府はEUとメルコスル(南米南部共同市場)間での自由貿易協定基本合意を受けて、ブラジル政府との経済連携協定(EPA)締結に動く可能性がある(1)。しかし、このEPAにはあまりに多くの危険があると言わざるをえない。
 現在の日本政府の首相とブラジル政府の大統領にあまりに多くの共通点がある。環境や人びとの福祉は考えずに、企業の利益となることを最優先する。その結果、地球大の環境破壊につながることを危惧せざるをえない。

 これまで日本はブラジルに対して数々のODAを投入して巨大な開発計画を行ってきた。その1つがセラード計画。
 セラードとは、ブラジルのサバンナ地帯。ブラジルで最も紫外線の強い地域で雨が少ないため、植生がきわめて特異な発達を遂げている。背の低く見える木は根が40メートルもの深さまで伸びる。この根が雨の少ないセラード地域の地下に水瓶を作ってきた。しかし、日本政府はこの地域を「不毛の大地」と呼び、自然の植生を破壊し、巨大な大豆畑へと変えていった。こうしてセラードの地下に拡がっていた水瓶が広大な地域にわたって破壊されることになった。セラードはアマゾンを含む南米大陸の水源であり、これが破壊されることは南米の生態系の破壊につながる。

 Greenpeaceがわずか5分足らずのビデオを作っている(2)のだが、そのセラードの美しさは思わず息を呑む。

 現地の人びとはセラードの自然の豊かさを語るが、日本のODA担当者によればそれは「不毛の大地」である。企業の利益にならない豊かさは「不毛」にしか写らないのだろう。しかし、その大地があのアマゾンの森林をも潤しており、その機能はいくら巨額を摘んでも構築できない精美なものなのだが。この大きな破壊を日本政府は「奇跡の成功」と呼んで憚らない。セラード開発プロジェクトをマスメディアが批判することは稀である。

 現在、ブラジル政府と日本政府はセラード地域に巨大なMatopiba農業開発計画を進めている。これが進めば、アマゾンの多くの森林ももはや枯渇するのは時間の問題になってしまいかねない、大きな問題に発展しかねない(3)。

 そして、日本からは公私の資本がブラジルの巨大資源開発企業ヴァーレ社に注がれている。しかし、このヴァーレ関連の鉱山の鉱滓ダムが2度も決壊した(マリアナ2015/11、ブルマジンニョ2019/1)。広大な地域が鉱滓の重金属で汚染され、生態系を傷つけ、人びとの生活を破壊した(4)が、いまだ十分な保障は行われていない。日本の出資者はヴァーレのこうした行動に責任がある。中でも三井物産はヴァーレとの関係を誇示している(5)が、果たして株主としての責任は果たしているだろうか? 利益を得て破壊するだけの関係になっているといわざるをえない。
 その三井物産がブラジルのインフラ事業を虎視眈々と狙っている(6)。環境破壊の責任も十分果たさずさらに利益のために資源搾取に動く姿勢にはまったくまともな良心も感じることができない。

 このような中、安倍首相とボルソナロ大統領というまれに見る見識のない、世界が抱えている問題を直視しようとせずに、関連企業の利益だけに奔走する2つの権力者によって協定が結ばれてしまうことによって、アマゾンやセラードの自然、社会がつぶされ、この地域、さらには地球の環境、未来が潰されてしまうことを強く憂わざるをえない。
 企業は多大な利益を得られるだろうが、それとて数年で終わる。破壊は未来永劫続く。日伯EPAを結ぶ前にこうした宿題をまず片付ける必要が日本政府や企業にはある。果たして責任ある協定を結ぶ資格があるのかを検討すべきだろう。

 Greenpeaceの作ったビデオはポルトガル語だけれども YouTubeの字幕の翻訳で結構通じる日本語になりそう、その美しい自然を見る一見の価値はあると思う。ぜひ見てほしい。

(1) 10月22日、ボルソナロ大統領来日、11月安倍訪伯?
《ブラジル》日本との経済連携協定締結に意欲=10月ボウソナロ大統領訪日で新展開か(日本語)

(2) Segure a Linha: Vale a pena sufocar o cerrado em nome do agronegócio?
アグリビジネスのためにセラードを破壊することにどんな価値があるのか? YouTubeビデオ(ポルトガル語)

(3) Greenpeace Matopiba開発計画に対する報告書(ポルトガル語)

(4) マリアナ鉱滓ダムの被害のドキュメンタリー

(5) 三井物産の総合力 Vale社とのアライアンス(日本語)

(6) 《三井物産》ブラジル事業拡大に意欲?=狙うはインフラ、動力、病院か (日本語)

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