アマゾン・セラード破壊に加担する菅政権

 怒りを通り越して、我を失いそうになる。茂木外務大臣、南米訪問。この時期に何のための訪問なのか? 新型コロナウイルスの蔓延で死者が20万人を越しているブラジルで何を話してきたのか?
 今、ブラジルの極右ボルソナロ政権によってアマゾン破壊、先住民族のジェノサイドが進んでいると国際社会が警鐘を鳴らし、それゆえEUと南米共通市場メルコスールとの自由貿易協定も止まっている。アマゾン破壊に抗議して、ノルウェーやドイツはブラジルへの政府援助を止めた(1)。

 ところが安倍前政権は孤立したボルソナロ政権を積極的に支持し、ブラジルのOECD加盟を支援してきた。かつては日本のODAがブラジルでのセラード地域での大規模大豆モノカルチャーを作るきっかけとなった。わたしたちの税金を使って、アマゾンやセラード(ブラジル中央地域のサバンナ地域)の破壊につながる農業開発を進めてきた。セラードはアマゾンを含む南米大陸の水源であり、ここでの農業開発が現在の水資源の枯渇につながっている。さんざんブラジルの市民団体からは厳しく批判されてきたにも関わらず、聞く耳を持たずにさらなる開発を進めてきた。これが現在のアマゾン破壊の引き金となった(2)。今、やるべきことはこのボルソナロ政権への支援を止め、さらなる環境破壊を止めさせることだ。

 にも関わらず、茂木外相は、「ボルソナーロ大統領が進める諸改革を評価しつつ、日本企業の投資の維持・促進にはビジネス環境の更なる整備が不可欠である旨述べました。これに対し、ボルソナーロ大統領より、日ブラジル経済関係を強化に向け、日本企業のビジネス環境整備のためにさらに取組みたい旨述べました」「日本の農業開発や大型投資などがブラジルの産業発展に貢献してきた歴史について触れ、ボルソナーロ政権が取り組む年金や税制の改革が日系企業等のビジネス環境整備につながることへの期待を示すと共に、デジタル経済、環境、司法協力等の幅広い分野での協力を進めたい旨述べました」(外務省ページより)だと(3)。何を言っているのだ。年金改革によってブラジルでは多くの労働者が最後の福祉すら奪われようとしているのに。

 そしてさらには「ニオブ及びグラフェンの生産及び利用に関する協力覚書」に署名したとのこと。このニオブとは原発などに不可欠なレアアースであり、その生産はほとんどがブラジル産である(4)。そしてグラフェンは黒鉛(グラファイト)から作られ、軽く強靱な素材となる。ブラジルは世界第2位の黒鉛産出国。
 このような鉱山開発が森林破壊、環境汚染の最大の原因の1つになっている。森林破壊はさらなるウイルスの蔓延や気候変動の激化、生物の絶滅などをもたらしかねない。開発するとしても、十分な環境保護計画が不可欠だが、今のブラジル政府にそれをやる姿勢は皆無である。鉱山開発に伴い、地下から掘り出された鉱滓をためるダムがブラジル全国でいくつも作られているが、複数の鉱滓ダムが決壊しかねず、決壊すれば広大な地域を汚染し、人びとの生活を困難にしてしまうことが危惧されていた。ここ近年だけでも2つの鉱滓ダムが決壊し、それは現実のこととなってしまった。その鉱滓ダム決壊の責任企業はヴァーレ社だが、日本から三井物産などを含め巨額の投資が行われている(5)。ヴァーレ社は被害者を救済する責任があるのだが、それを果たしていない。三井物産他、ヴァーレ社の日本の投資者たちはヴァーレ社の責任を追及する義務がある(6)。ブラジルで鉱山開発が引き起こしている事故の責任をまったく果たそうとしない中、新たな鉱山開発の約束をしてくるとはいったいどういうことなのだ?

 これ以上の環境破壊はブラジルと日本、二国間の問題に留まらない。この地球のさまざまな生物の生存に影響を与えるかもしれない。しかし、あたかも問題など存在しないかのように、進められようとしている。

 トランプーボルソナロー安倍はまったく似たもの同士。民主主義や環境を完全に無視して、強引に開発を進める姿勢はまったく一致している。米国とブラジルは今や世界の農業大国であり、それを支えるのがアジアの市場。トランプの退場によって、このトライアングルの一角が崩れる。その対策がこの南米訪問なのか?

 ブラジルでも米国でも水資源が枯渇始め、土壌も大規模に失われており、自然収奪型の農業はもう長く持たない。大きな転換が必要になってきている。日本はしかし、この収奪モデルにずっとあぐらをかいてきた。当然、外交も、農業政策も、開発政策も、すべて大きな転換が迫られている。それなしにはもう生態系は持たない。今は変わる時なのだ。

追記(2021年1月14日):
 ブラジルの原生林破壊はボルソナロ政権になって80%増加(7)。気候変動や生物の大量絶滅が進む中、むしろ回復に必死にならなければならない森林を逆に猛スピードで破壊しているのがボルソナロ政権。取り締まる機関IBAMAの予算をカットし、違反しても罰金が取られない(徴収された罰金は35%も減っている(8))。それに対して、フランスのマクロン大統領はブラジルの大豆に依存することはアマゾン破壊を承認するようなものだ、と自由貿易協定を拒み、ブラジルからの大豆輸入にも否定的な姿勢を見せる(9)。
 一方、我が茂木外務大臣はボルソナロ大統領と手を握り、もっと開発進めましょうと覚え書き。これが日本の現実。

(1) アマゾン破壊の資金提供を止めたノルウェーとドイツ、日本とは正反対
https://project.inyaku.net/archives/4488

(2) 語られないアマゾン森林火災での日本の関与
https://project.inyaku.net/archives/4617

(3) 外務省:茂木外務大臣のブラジル訪問
https://www.mofa.go.jp/mofaj/la_c/sa/br/page1_000921.html

(4) アマゾン破壊と日本(その4)アマゾン破壊への日本の関与
https://project.inyaku.net/archives/4371

(5) 三井物産の総合力 Vale社とのアライアンス
https://www.mitsui.com/jp/ja/innovation/business/vale/index.html

(6) 日伯経済連携協定(EPA)に反対する
https://project.inyaku.net/archives/4340

(7) Alertas de desmatamento no Brasil cresceram 80% nos últimos dois anos, informa Inpe
https://www.brasildefato.com.br/2021/01/12/alertas-de-desmatamento-no-brasil-cresceram-80-nos-ultimos-dois-anos-informa-inpe

(8) Sob Bolsonaro, multas do Ibama caem para menor nível em duas décadas
https://fakebook.eco.br/sob-bolsonaro-multas-do-ibama-caem-para-menor-nivel-em-duas-decadas/

(9) ‘Depender da soja brasileira é endossar o desmatamento da Amazônia’, diz Macron
https://g1.globo.com/mundo/noticia/2021/01/12/depender-da-soja-brasileira-e-endossar-o-desmatamento-da-amazonia-diz-macron.ghtml

写真は外務省のページからと三井物産のサイトのキャプチャ

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