フランスで歴史的な裁判が始まった。米国のベトナム戦争での枯れ葉剤作戦によって枯れ葉剤を浴び、自身の健康被害のみならず、生まれた子、孫にも深刻な健康被害が出たトラン・ト・ンガさんが米国化学企業14社を相手に起こした。日本語字幕の付いたビデオをぜひみてほしい(5分10秒)(1)。
化学企業は戦争を通じて巨大化した。戦争に必要な化学物質の供給、爆弾などの製造、そして毒ガス、枯れ葉剤。ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤は多岐にわたるがもっとも使われたのかエージェント・オレンジ。2,4,5-Tと2,4-Dの混合剤。このエージェント・オレンジが大量のダイオキシンを生み出し、それを浴びていない子ども、孫にまで影響を与えている。2,4,5-Tの使用は禁止されたが、2,4-Dは情報操作によって生き延び、現在も使われている。
この枯れ葉剤の最大の製造企業がモンサント(現バイエル)とダウ・ケミカル(現コルテバ)。戦争遂行に必要な物質を提供したこれらの化学企業は米国政府に絶大な影響力を持つようになっていく。その後、戦争の終結後、その矛先は全世界の農地に向かう。米国政府はモンサントやダウ・ケミカルの営業部であるかのように世界の政府にその遺伝子組み換え作物の栽培や農薬の使用を強要していく。各国政府がその農薬使用を規制しようものなら外交圧力をかけて、その規制を突破させる。
よく誤解されるが、モンサントのラウンドアップは枯れ葉剤から作ったというのは事実ではない。ラウンドアップの主成分グリホサートの特許は1974年のこと。もっともラウンドアップの効果が落ちてきた後にダウ・ケミカルは枯れ葉剤の主成分の1つ2,4-Dをラウンドアップに混合して、それを補う除草剤Enlist Duoとそれに耐性のある遺伝子組み換え作物を作っている。
ベトナム戦争は彼ら化学企業の大きな拡大のステップとなり、その後の遺伝子組み換え企業として世界の食料支配に向けた戦略展開の前提になったと言えるだろう。そして、こうした化学物質の大量使用が生物の大量絶滅や気候変動の大きな一因となっていることは疑うことはできないだろう。
このベトナム戦争での被害に対して、モンサントもダウ・ケミカルも一切、責任を取っていない。今もベトナムの犠牲者の苦しみは続いている。そして、その犠牲者は世界にも広がっている。この裁判はトラン・ト・ンガさんとその家族だけでなく、歴史的な意義を持たざるをえないだろう。
一方、このベトナム戦争での日本の関与は十分注目を浴びていないが、枯れ葉剤を積んだ爆撃機が日本から飛び立っており、日本はこの問題に深く関わっている(2)。さらに日本は枯れ葉剤を製造して米軍に提供した可能性も指摘されている。実際に使われなかった枯れ葉剤が日本各地に放棄されていることを考えるとその可能性は高いだろう(3)。とすれば日本はベトナムでの枯れ葉剤犠牲者に対する加害者と言わざるをえなくなる。その意味でも注目せざるを得ない。
(1) Brut Japan
https://www.facebook.com/brutjapan/posts/1097596680704628
French Court Hears Case Against Chemical Corporations Over Agent Orange Use in Vietnam
“I’m not fighting for myself, but for my children and the millions of victims,” explained plaintiff Tran To Nga.
https://www.commondreams.org/news/2021/01/25/french-court-hears-case-against-chemical-corporations-over-agent-orange-use-vietnam
フランスでの裁判となったのはトラン・ト・ンガさんがフランス国籍を取得したことに関わるようだが、フランスではモンサントに対する裁判が他にもあり、今後、フランスでの関心は高まらざるをえないだろう。
Landmark Agent Orange court case against agrochemical giants gets underway(写真も)
https://www.gmwatch.org/en/news/latest-news/19675
(2) しかし、米国政府は枯れ葉剤の日本持ち込みは否定している。もっともこれは明らかにウソだろう。
沖縄タイムス:沖縄に駐留した元軍人、枯れ葉剤に触れ発病 60~70年代 持ち込みないと米政府主張
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/648149
(3) 朝日新聞:大量の枯れ葉剤、山中に今も
http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20191028010500001.html
「(仮説)ベトナム戦争に参加する米軍の要請を受け、日本政府は国内の化学企業に大量の245T剤を製造させた。だが、その後、安価な枯れ葉剤が開発され、必要なくなった。その処理に困った政府が、苦肉の策として国有林への埋設を決めたのではないか――。」
朝日新聞:猛毒含む除草剤、42市町村に埋設のまま 流出を懸念
https://digital.asahi.com/articles/ASP1S73F9P1STIPE00B.html
1月26日に出たばかりの記事。岩手県の雫石や屋久島のような自然豊かなところに最大量の2,4,5-Tが埋められてダイオキシン流出が懸念される状態になっているとは唖然とします。