「農薬」と「農毒」:ブラジルではなぜ農毒と呼ぶか?

 「農薬」って変な言葉。農の薬? なんで薬というのだろう。実際に薬じゃない。毒で雑草や虫、菌を殺すもの。実際にブラジルでは“Agrotóxico”と呼ぶ。直訳すれば農毒。まさにぴったりの言葉。しかも、これは決して「運動用語」じゃなくて、政府もこの言葉を使っている。方や「薬」、そして方や「毒」、正反対の表現になっている(1)。
 なんでこうなるのか、前から疑問だったのだけど、それが1つの記事で氷解した。ブラジルで農毒という言葉を作り出したのは、アグロエコロジー研究者、アディルソン・ディアス・パスコアル氏(2)。
 彼は「除草剤(herbicida)」「殺虫剤(Praguicida)」などという表現が本来の持っている毒性を隠すとして、それをしっかり表す言葉として“Agrotóxico”という言葉を作り出して、1977年の著書にそれを書いた。そしてこの言葉はブラジルで広く使われるようになり、1989年にはブラジルの連邦法 (第7,802号)でも使われ、行政用語となった。だから農薬反対運動だけでなく、行政でも社会でも同じ言葉が使われている。
 
 有機農業研究者の言葉がそのまま法律になった、という話。もっとも、ブラジルはそれでよかったという話では残念ながら終わらず、特に遺伝子組み換え大豆の栽培が始まって以降、ブラジルでの農薬使用は激増し、世界でもっとも使用が多い国となってしまっている(ただし単位面積あたりでは日本はブラジル以上の農薬を使っている)。そして極右大統領はわずか4年の任期の間に、それまで認可された数と同数の新規農薬を承認してしまった(つまり農薬の数は倍増)。
 
 世界最悪のアグリビジネスと世界最高のアグロエコロジー運動がせめぎ合うブラジル。前者は世界の資金が集まるからとても強い。でも後者の運動の強さには驚く。
 
 ポルトガル語や英語などでもHerbicida/Herbicide(除草剤)、Praguicida,Pesticida/Pesticide(殺虫剤)のように殺す、という意味の-cida/-cideが入っている。日本語だと殺虫剤とか殺菌剤には入っているけど、総称は突然薬になってしまう。これは誰が名付けたのかしらないけど、残念ながらアジアは広汎に薬と呼んでいるようだ。本質から外れた名称をそのまま使い続けるのはどんなものか、と思うのだが、農薬を農毒と書いても通じないので、日本では農薬と書き続けざるをえないだろうか。いずれにしても、その本質は農毒であることを念頭に進みたいと思う。
  
 
(1) 実際に薬と毒は紙一重であるのも一面の真実かもしれない。微量の毒を入れることでそれへ生命が抵抗することで癒される、というのもあるから。でもその生命反応を起こすために入れる薬と、命を絶つために大量に毒を入れる行為は真逆のものであることは疑えないと思う。

(2) 記事を読むよりもポルトガル語がわかる人はこちらのビデオがわかりやすい。


ポルトガル語だけど最近のGoogle翻訳でほとんど読める日本語になる。
Conheça Adilson Paschoal, criador do termo ‘agrotóxico’ e parceiro de Ana Primavesi
https://www.brasildefato.com.br/2023/10/03/conheca-adilson-paschoal-criador-do-termo-agrotoxico-e-parceiro-de-ana-primavesi

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