欧州議会環境委員会、「ゲノム編集」生物解禁方針を承認するも行き先は不透明

1月24日、欧州議会の環境委員会で、NGT、新ゲノム技術(「ゲノム編集」のこと)によって改変された生物の規制緩和案が承認された。欧州では2018年7月にNGTによる生物は遺伝子組み換え生物として規制すべきとする欧州裁判所の決定が出て以来、その自由な流通は認められていない。
 その決定を覆そうとバイオテクノロジー企業はロビー活動を強めてきた。その規制緩和案は賛成47、反対31、棄権4で委員会で承認され⁽¹⁾、2月5~8日に開かれる予定の本会議に提出される予定だが、実際には現在の提案に対する反対は根強く、簡単に採決されてしまうような状況にはないようだ。 
 
 この規制緩和案は「ゲノム編集」技術で改変した生物を通常の品種改良による生物と同等とみなすカテゴリー1と遺伝子組み換え生物として扱うカテゴリー2に分けて、前者は一切規制せず、後者だけを従来の遺伝子組み換え生物の規制をかけていこうとするものだが、このカテゴリー1の定義には、さまざまな異論が噴出している。
 
 その論議はとても専門的な用語だらけのものなので、後日、問題点をまとめようと思うが、なぜこれだけ異論が噴出するかというと、その定義があまりに、科学的な根拠に乏しいことが指摘されており、それゆえ、合意が困難視されている。
 
 この提案に対しては、科学者たちからも、有機農業団体IFOAMも強い反対を示しており、またGreenpeaceやFriends of the Earthなどの環境団体、中でもPesticide Action Network Europe (PAN Europe)などの農薬問題団体、そして遺伝子組み換え問題の市民団体なども強い反対を表明している⁽²⁾。
 
 農薬問題のPAN Europeはこの「ゲノム編集」生物の規制緩和が行われたら農薬の使用増加が懸念されるという声明を出している。「ゲノム編集」の特許を持つ民間企業の1位はコルテバ(モンサントのライバル企業)、2位がバイエル(モンサントを買収)と農薬企業(=遺伝子組み換え企業)であり、また、この緩和と同時に危惧されているのが、従来の遺伝子組み換え作物を含む規制緩和であり、実際に米国では両方の規制緩和が同時に行われていることを考えても、今後、農薬耐性、害虫抵抗性などの作物が増える可能性は当然警戒しなければならない。
 
 ヨーロッパではこの長い抵抗を通じて、多くの市民組織がこの問題に関わり声明を発してきた。そのおかげでこの問題が容易に看過できないものであることを学び直すことができるはずだ。
 これだけ何年にもわたり、ヨーロッパの科学者や農家、環境団体などに問題視される政策を日本政府はわずか3ヶ月の省庁内の少人数の検討会だけで決定してしまった。日本のマスコミもまったく問題を掘り下げようとしていない。
 日本は世界で突出した「ゲノム編集」生物生産国になってしまっただけに、日本でこそもっと多くが声を上げなければならないはずだ。

(1) Plan to Loosen EU Rules on Genetic Technologies Passes First Parliament Hurdle

Plan to Loosen EU Rules on Genetic Technologies Passes First Parliament Hurdle

EU Parliament gives first green light to new rules for gene-edited plants

EU Parliament gives first green light to new rules for gene-edited plants

(2) IFOAM Europe: IFOAM Organics Europe calls on MEPs to postpone plenary vote on NGTs as ENVI Committee vote leaves many issues unsolved
https://www.organicseurope.bio/news/ifoam-organics-europe-calls-on-meps-to-postpone-plenary-vote-on-ngts-as-envi-committee-vote-leaves-many-issues-unsolved/

PAN Europe: Deregulation of new GMOs: an open door for herbicide tolerant and pesticide producing plants?
https://www.pan-europe.info/blog/deregulation-new-gmos-open-door-herbicide-tolerant-and-pesticide-producing-plants

Greenpeace EU-unit: MEP backing for GMO deregulation threatens rights of farmers

MEP backing for GMO deregulation threatens rights of farmers

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA