EUは「ゲノム編集」生物だけでなく遺伝子組み換え規制をすべて緩和する?

 CRISPR-Cas9による「ゲノム編集」には遺伝子大量破壊などの危険があることが明らかになってきているにも関わらず(1)、「ゲノム編集」生物への規制が来年7月にEUで突破され、「ゲノム編集」食品が流通するだけでなく、従来の遺伝子組み換え生物の規制も大幅に緩和される危惧が高まっている(2)。
 遺伝子組み換え農業は1996年の大規模栽培開始以来、急激にその範囲を拡大させてきた。米国での大豆、トウモロコシでの遺伝子組み換え品種の割合は95%程度になっている。しかし、2015年、初めて前年比を下回り、それ以降、微増に留まっている。
 実際に遺伝子組み換え食品と健康や環境被害の関連が指摘され、世界の市民がそれに反対し、また実際に遺伝子組み換え技術では役立つ品種はできておらず、数少ない成功例と思われた農薬耐性や害虫抵抗性品種もスーパー雑草、スーパー害虫の出現で意味を失ってきている。
 つまり、人からも自然からも拒否されたことがこの遺伝子組み換え品種の頭打ちという現実になったと言うほかないのだが、遺伝子組み換え企業はそうは考えない。遺伝子組み換え生物にかけられる申請・審査という制度が大きな重荷となり、また食品表示義務によって市民に選ばせる権利を持たせてしまったことがこの頭打ちの原因と彼らは考える。
 
 そこで求められたのが申請も表示も必要としない遺伝子操作生物であり、「ゲノム編集」食品はまさに、その規制突破の格好の手段となった。米国や日本ではすでにそれが実現してしまっている。そして、注目すべきことに米国では遺伝子組み換え生物に対する規制も同時に緩和されている。しかし、EUでは欧州司法裁判所が2018年に「ゲノム編集」生物を従来の遺伝子組み換え生物と同様に規制すべきという判断を下していた。
 
 そのEUが動き出す。欧州委員会はほぼ遺伝子組み換え企業の意向に沿って動いており、「ゲノム編集」生物を規制するだけでなく、従来から遺伝子組み換え生物とされてきた一部のものの規制を外すことが提案されている。つまりシスジェネシス(異種類の遺伝子を挿入しない)による遺伝子組み換えに対しては

  • 事前の安全審査
  • サプライ・チェーン全体でのトレーサビリティ
  • 開発企業に課されていたその遺伝子組み換え食品の検出・判別方法の提供
  • 遺伝子組み換え食品の食品表示

のすべてが免除される。

 「ゲノム編集」生物以外にどの範囲が規制緩和されるのか、まだ詳細はつかめないが、たとえばRNA干渉(RNA Interference)による遺伝子組み換え生物がそうなってしまうのではないだろうか? すでにRNA干渉によって、切っても褐色にならないリンゴやぶつけても黒くならないジャガイモなどが作られているが、これは遺伝子組み換え食品・飼料などとして現在は申請が必要で、承認されても、流通させるためには表示が必要となる。しかし、今後、こうした遺伝子組み換え食品も申請も表示もされなくなっていくだろう。現在は日本はまだ遺伝子組み換えリンゴは承認されていないが、承認も不要で、表示も不要となれば消費者は拒否できなくなる。
 
 EUから抜け出した英国は遺伝子技術法案(「精密育種法案」、精密と呼ぶのはあまりにおこがましいが)を作ろうとしているが、ほぼEUも同様の方向となりつつあるといえそうだ。
 
 果たして対抗策はあるのか、というと大いにある。英国で「ゲノム編集」生物の無規制流通に反対する人は圧倒的多数(パブコメの88%)を占め、EUの世論調査でも圧倒的多数が反対を占めている。確かに欧州委員会はほぼ遺伝子組み換え企業に買収されてしまっていると言わざるを得ない状況のようだが、各国全てがそれに同意するとは思えない。市民の反対は強い。
 この現状では「ゲノム編集」食品市場の未来はないと言える。だからこそ、遺伝子組み換え企業は食品表示させずに消費者にあきらめを強要する政策を押しつけているわけだが、この押しつけによって、さらに市場での民間代替表示をさらに強化させる結果になるかもしれない。すでにEUの中にはNon-GMOラベルが普及している国がある(図参照)。有機食品のシェアも急激に増えている。つまり、遺伝子編集されていない食品への民間代替表示が進むことで、消費者の選ぶ権利を確保することが可能になる。
世界のNon-GMOラベル 
 問題なのはやはり日本となる。現在の日本には民間代替認証は一部の生協のカタログの中にしか存在しない。一般の市場には存在していない。日本でも早急にスーパーで使える民間代替認証を普及させていく必要がある。
 
(1) CRISPR-Cas9による遺伝子の破壊問題についてまとめた投稿 7月30日
CRISPR-Cas9による「ゲノム編集」が危険すぎるわけ

(2) EU Commission’s secret policy scenarios show full GMO deregulation on the cards

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