FOOD, INCはファクトリー・ファーミング(工場式畜産)の問題を扱ったドキュメンタリー(2009年)。すでにアップリンクなどで上映され、多くの人が見ているものだが、ファクトリー・ファーミングの問題をあらためて考えるために再び見た。
学び取ることができる要素に満ちたドキュメンタリーで、すべての要素を書き出すには膨大な時間がかかりそうなので、今回はファクトリー・ファームと食肉工場の労働者の問題に絞る。
ファクトリー・ファームで働く労働者たち(FOOD, INCより)
鶏、豚、牛などを狭いところに押し込める畜舎、衛生的にはさまざまな病原菌の巣になりうる。成長を促すため、あるいは病気の対策のために家畜に投入される抗生物質(現在、米国では製造される抗生物質の8割は家畜に使われる)、そこから生まれる抗生物質に耐性のある(抗生物質が効かない)危険な病原菌。
そこで働く人は抗生物質の薬が効かなくなったり、アレルギーなどの健康被害を受けている。大きなファクトリー・ファーミングの畜舎で働く人は今はメキシコなどの移住労働者が多く、その中にはビザもない無権利状態の人が少なくない。ファクトリー・ファームでは家畜の前に人の方が折れてしまう(やめてしまう)という話しを聞いた。有害な環境の中で、しかもその仕事の大半が死骸の大量処分だったら、続けることのできる人はわずかだろう。
米国は自由貿易交渉を通じて、補助金+大規模モノカルチャーによるトウモロコシで、メキシコの農民を破産させた。破産させられた農民は生きるために、家族を養うために危険な労働でもやめることができずに職を求め、食肉産業は彼らを組織的にリクルートしている。
食肉工場労働の状況も厳しい。かつては組合もなく、厳しい労働条件が続いたが労働運動の進展により、一時は食肉工場労働も条件は改善し、給料もまともなものになった。しかし、規制緩和により、食肉企業の寡占が進む中で、労働者の権利は次々に剥奪され、現在ではその多くが権利のない移住労働者に占められるに至っているという。
しかもさんざん無権利状態で10年以上働かせて、権利主張し始める前に摘発して犯罪者として追放する、実に見事なまで労働者を搾り取るシステムができあがっている。
このシステムの拡大を止めなければならない。
FOOD, INCはあなたはこのシステムを変えるために一日3回投票できる、と締めくくる。3食の食事に何を選ぶか、それは無権利の労働者を酷使するシステムにお金を払うのか、そして自らの健康も害していくのか、否か。
マイケル・ポーランは食事の選択だけであれば金持ちだけが健康な食事を取り、貧しい人には危険なファクトリー・ファーミングの肉、遺伝子組み換え食品だけになってしまいかねず、その意味でアグリビジネスを規制する政策実現の必要性を強調する。
この2つの柱の重要性を強調したい。
参考資料: