反対者は殺し屋で殺す、そんな時代錯誤の暴力が続くブラジル北東部にオールニッポンが再び登場?
アマゾンの東縁を流れるアラグアイア川、トーカンチンス川水系をつないで、ブラジル内陸で生産される大豆をアマゾン河口に運搬するという巨大開発事業が進行中という。その開発事業計画に日本政府と民間企業がぞっこんらしい。
Governo recebe comitiva japonesa interessada em investir no Maranhão
この地域はMATOPIBAと称されるが、MA=マラニョン州、TO=トカンチンス州、PI=ピアウイ州、BA=バイア州の4つの州の頭文字であり、広大なアマゾンとセラード、カアチンガという生態系の豊かな地域であり、先住民族の多い地域で総面積73,173,485haで日本のほぼ2倍だ。
環境規制は弱く、土地の権利は確定しておらず、土地の紛争も絶えない。ここに巨大計画をやるということはそこで何が生まれるか、想像することは容易だ。運河をアマゾンに切り開くことはブラジルのアグリビジネスの大きな悲願であり、米国のミシシッピ川に対抗できるロジスティックスを作りたいのだろう。しかし、ここはアマゾンとセラード、カアチンガというひじょうにデリケートかつ豊穣な生態系が残る地域であり、その生態系とともに先住民族やキロンボ(黒人共同体)などの伝統的住民が暮らしている地域でもある。大規模開発はその微細で脆弱な秩序を壊してしまう危険が高い。
しかもこの運河は雨期の6ヶ月しか使えないものだ。無理矢理開発すればアマゾンの水体系が壊れてしまう。
Bacia do Tocantins – Araguaia
実はこの地域、日本のODAにとって特別な地である。というのも日本のODA最初のプロジェクトが生まれ、ブラジルをはじめとした世界から大きな批判を受け続けてきたものだからだ。
JICAの設立された1974年、まず始まったのが大カラジャス計画だ。巨大鉄鉱山の開発を中心に、アルミニウム(ボーキサイト掘削からアルミ精錬まで)、ダム開発、ユーカリ植林などを含む巨大なもので、そのマスタープランをJICAが書き、その融資も行ったが、環境や社会開発の視点を欠いたその計画には世界から批判が集まった。
たとえばトゥクルイダムの開発を見てみよう。これは世界2番目の発電量のダムだが、その発電量の3分の2を日本向けに作られるアルミニウムの精錬工場に使われている。周辺住民にはほとんど電力は提供されておらず、アマゾン破壊のためのエネルギーになっている。生態系が狂ってしまい、異常な蚊の発生により居住できなくなった地域も生み出された。
アルミニウム精錬には莫大なエネルギーがかかり、汚染も伴うため先進国での生産は70年代に急激に落ち込んだ。日本企業のためのアルミニウム精錬が「援助」と称して、アマゾンで行われた。
そして、さらに大豆などの大規模開発である第3期のセラード開発計画もこの地域の一角で行われている。
ここに来て、また巨大な開発計画がたてられて、日本からの参加を得るためにブラジル大統領が12月1〜6日に来日するのに4州の知事も随行し、この地域での大豆フロンティア(大規模プランテーション)を加速化するための投資を奨励しようとする予定との報道が、ブラジルでなされている。インフラ整備と農業生産・産業の支援のための資金を確保するために、日本政府との交渉に挑むという。投資総額予測は30億レアルになるみこみで、JBIC、JICA、JETROとも面談予定だという。
Wellington vai ao Japão negociar recursos para o Matopiba
そもそも、記事によると、JICAはこの点に関する調査を実施しているという。確かに既に開始され2015年8月で調査が終わっているようだ。
業務指示書 ブラジル国北部地域穀物輸送網整備に関する情報収集・確認調査
Study On The Transit System In The Northern Region Of Brazil
ここにしっかり、「 (4)日系企業が関係する事業の状況、今後の計画、日本政府への要望の確認 (5)北部地域穀物輸送網整備による日本への裨益効果の検証」が含まれている。
もし、この開発計画がそのまま進んでしまえば、この地域(アマゾンやセラード、カアチンガ)の生態系、そこに住む先住民族や伝統的住民の生存にとって大きな危険が生み出される可能性が高い。
その計画のたびに、地元や国際機関からはその社会開発や環境保護の面での問題を指摘される日本の投資・援助、しかし、そうした声は日本ではまず報道されない。マスメディアに協力したことはあったが、援助の批判の現地取材が放映される時には援助の賛美番組に使われることすらあった。マスメディアも批判に耳を傾けない礼賛記事を連発し続けている。日本政府やマスコミはここ40年近い地元や世界の批判をスルーしてきた。
日本での民主主義のあり方が問われる開発計画になるだろう。もし、日本政府やマスコミが以前と同じく、批判を一切潰すのであれば、もう取り返しの付かない汚名を歴史に刻むことになる。
もし最後にチャンスがあるとしたら、日本側関係者の現地住民をはじめとするブラジル市民社会との対話であり、日本の市民社会との対話である。