バイオテクノロジーと戦争は切り離せない。戦争技術として爆弾や生物兵器が作られ、それから化学肥料や農薬が生まれてくる。戦争産業として政府との関係を密接にしていく化学企業はやがて遺伝子組み換え技術を開発。しかし、この技術は農薬を売る企業にとっては利益があるが、農家にも消費者にも利益を与えないとんでもないものだった。そして、時代はさらに第2世代の遺伝子組み換え技術としてゲノム編集やさらには究極の遺伝子組み換えとよばれる合成生物学を生み出した。特に後者はこれまでの遺伝子組み換えが既存の遺伝子のコピーアンドペーストや、遺伝子のスイッチのオンオフによるもので、基本的に既存の遺伝子に何らかの手を加えるものだったのに対して、後者はコンピュータ上でDNAを設計し、生命を作り出してしまう。すでに藻のような簡単な生命体を作り出し、油、バニラに相当する物質を生産することが実現できており、商品化もされているといわれている。
そして、今、これらの技術がバイオ兵器として利用することが現実のものになる懸念が高まっている。合成生物学で作られた致死的なウイルスの出現などが危惧される。果たして、今後の戦争でバイオ兵器が使われてしまうのだろうか? 国家間の戦争で使われる可能性は低いだろう。すでに生物兵器禁止条約(Biological Weapons Convention)が作られ、すでに178カ国が署名している。しかし、こうした技術は国家でなくても特定のグループによって作り出すことも可能であり、地域紛争で使われる危険は小さくない。
米国国防省は合成バイオ兵器の脅威について検討
THE PENTAGON PONDERS THE THREAT OF SYNTHETIC BIOWEAPONS
https://www.wired.com/story/the-pentagon-ponders-the-threat-of-synthetic-bioweapons/
Could gene editing tools such as CRISPR be used as a biological weapon?
https://theconversation.com/could-gene-editing-tools-such-as-crispr-be-used-as-a-biological-weapon-82187
The Biological Weapons Convention
https://www.unog.ch/80256EE600585943/(httpPages)/04FBBDD6315AC720C1257180004B1B2F?OpenDocument
Find the time to discuss new bioweapons
http://www.nature.com/news/find-the-time-to-discuss-new-bioweapons-1.20206
まるで『バイオハザード』のようなSF映画に聞こえるが、もはや空想の段階ではなくなってしまった。
兵器ではないが、すでに巨大な人類への脅威となっているのが抗生物質耐性菌の拡大である。すでに世界で年間70万人が死亡し、2050年にはその数はこのままでは1000万人に激増し、ガンを超える最大の死因となることが危惧されている。感染してしまえばあらゆる薬が効かないので、治療ができない。生きるか死ぬかはその人の生命力次第となる。
このような流れは必然的なものではない。科学の進歩によって必然的に向かえることになった結論ではない。やがてまとめたいと思うが、本流の研究が阻害され、特定の企業にとって利益となる技術だけが肥大してしまった結果、生み出された結果である。特定の目的のために多様な生命体を切り刻み改造する、バンダナ・シバであれば精神のモノカルチャーとでも呼ぶだろうか。それに対して多様性の科学ははるかに多くの利益を人類にもたらせるはずだ。人類が薬として開発してきたその7割は生物多様性の産物である。世界に現存している生物多様性のうち、人類が把握できているものはわずかに過ぎず、しかも、こうした生命工学がさらにその多様性の破壊を進める。そのことによって生命そものが危機に追いやられる。
抗生物質耐性菌による危機をもたらしたものは食の生産のモノカルチャー化であり、化学物質(農薬、抗生物質、化学肥料)の大量使用であり、その典型が遺伝子組み換え農業である。生命を危険にする技術が世界化し、大量生産されることによってどんどん安価に提供されるようになる。国家でなくとも小さなグループでもそうした技術を使ってバイオ兵器を作ることが可能になる。この技術を肥大化させることで世界はより危険になる。
現在の生命工学がもたらす危機に対して、生命の多様性を生かす科学を対置すること、工業型農業に対してアグロエコロジーを対置することでその危険から脱出することは可能であるはずだ。生産者、消費者、研究者、医療関係者などなど、広汎な人びとによる命を守る連携がそれには必要となってくるだろう。