気候危機に対処するためのCOP28(国連気候変動枠組条約第28 回締約国会議)が予定された会期の終わりに近づいている。気候危機というと化石燃料をどうするか、ということが大きな焦点だ。石油や石炭消費をどう止めるか、これが重要であることは疑いない。けれども、近年のCOP会議で焦点の1つになり始めているのが食・農業である。なぜかというと食のシステムは温暖化効果ガスの3分の1を直接排出、間接に排出しているものも含めるとほぼ半分を占めるとも言われる。つまり気候危機を解決するには食を変えなければならない。
またたとえ排出を減らしたとしてもすでに大気は温暖化効果ガスで満ちており、気候危機は止まらない。大気中に放出された温暖化効果ガスは地球の気候を不安定にし続けるからだ。しかし、世界大で生態系を守る農業に転換することで地球上の最大の炭素の保存庫である土の力を取り戻し、炭素を蓄積する力を回復させることで、食は気候危機を緩和させていくこともできる。だからこそ、食の問題は気候危機対策の中心に躍り出ざるをえないのだ。
でも、同時に大きな問題が立ちはだかる。それは巨大企業によるこのストーリーの歪曲(グリーンウォッシュ)だ。そもそも1970年代に気候危機が科学者が指摘した時、巨大石油企業が彼らの利益の制限につながる政策を実現させないために莫大なお金を使って、世界中に誤った情報を流して、規制を食い止めてしまった。それがなければ、今日私たちが経験しているような異常な気候危機は避けられていただろう。そしてその石油企業の手法はアグリビジネス(Big Ag、食の巨大企業群、遺伝子組み換え企業や巨大農薬・肥料企業・食肉企業・穀物商社・流通企業など)に受け継がれ、実行されている(1)。
Big Agは「Regenerative Agriculture(環境再生型農業)」を掲げ、気候危機と闘うかのようなパビリオンをCOP28会場に開設し、気候を破壊している主犯の企業があたかも気候危機からの救世主であるかのように振る舞い、彼らの事業を規制する計画が決定されないように、そして彼らの事業を利するようにCOP28で力を振るうようになった。本来、利益相反者が政策決定に参加することは防ぐべきだが、彼らが各国政府の政策を牛耳り、COP28のような国際会議も彼らが大きい顔をしている。2021年に始まった国連食料システムサミットはまさに彼らによって国連がジャックされた典型例と言えるだろう(2)。
たとえばモンサント(現バイエル)は環境再生型農業で重視される不耕起栽培の最大の推進者だと公言する。しかし、ラウンドアップを大量に使う不耕起栽培で環境再生ができるわけがない。実際に彼らの言う環境再生型農業は、彼らのビジネス(利益)の再生産モデルでしかない。
Big Ag(巨大アグリビジネス)は米国のグリーン・ニューディールもEUのグリーンディール、Farm to Forkも、そして日本のみどりの食料システム戦略も実質的に大幅に捻じ曲げ、農薬規制を反故にして、さらに「ゲノム編集」や培養肉など、独占のための技術であるフードテックを公的資金を活用しながら拡大させ、彼らの独占を維持させようとやっきとなっている。国や国際機関での彼らのエネルギーの使いようは桁外れであって、残念ながらここ数年で各国政府や国際的な政策における反動は大きく進んだと言わざるを得ない。
石油企業の撹乱がなければ気候危機はこうはなっていなかった。そして、なんとかこの状況を急いで変えなければならない、という現在に、Big Agによる撹乱によって私たちは有効性のある計画を作ることが困難な状況に置かれてしまっている。
打開策はあるのか? 3つのアクションが重要だろう。1つは地域で生態系を守る農業への転換を進めること、有機農業、自然農法、アグロエコロジーへの転換だ。その基盤となるのは地域であり、地方自治体はその上で大きな力を発揮しうる。学校の有機給食はその中核に位置しうる政策だろう。もう1つはこの気候危機においてBig Ag、工業型農業が引き起こしている問題を広く共有することだ。最後の1つは巨大企業による関与を排除すること(各国政府への企業献金の禁止、国連での多国籍企業規制条約の制定など)が必要である。
実際に英国グラスゴーで行われたCOP26では地方自治体が中心となった「グラスゴー食と気候宣言」が出された(3)。食の政策を変えることで気候危機に立ち向かう世界の地方自治体と市民がグラスゴーに集まった。日本の各地域の活動は現在、こうしたグローバルな政策を変える重要な要素になりうるし、なる必要がある。
(1) How Big Agriculture is borrowing Big Oil’s playbook at COP28
How Big Agriculture is borrowing Big Oil’s playbook at COP28
Regeneration is Life – An Agroecological Paradigm to Overtake the Climate Crisis
https://navdanyainternational.org/publications/regeneration-is-life/
(2) 農薬企業によるFAOの乗っ取り https://project.inyaku.net/archives/7947
(3) 気候危機に対して食を変えろ! グラスゴー宣言賛同都市に! https://project.inyaku.net/archives/5662