農薬企業によるFAOの乗っ取り

 現在、深刻化しつつある食料危機だが、偶発的なものではまったくない。この間の危険な動きが不可避にしたものだ。問題の根源からしっかり対抗する動きを作らなければ、今後さらに破局的になるだろう。この間の流れを理解することが決定的に重要になる。
 2008年に発生した世界食料危機は深刻な影響を世界に残した。この世界食料危機がそれまでに進めていた食料政策の当然の帰結であったからだ。その継続はさらなる危機を生むということで、国連の機構改革を含む大きな対応策が採られた。食料政策の協議が大きく民主化されることになった。農民、消費者の代表の参加が認められ、国連/FAOの農業・食料政策は大きく変わった。その成果の1つが2014年国際家族農業年だったし、それに続く家族農業の10年がこの動きを象徴するものだ。そして工業型農業に代わるアグロエコロジーの推進を国連は決めた。各国もこうした政策を進め、世界では有機農業・アグロエコロジーの生産が急激に拡大することになる。
 
 そして、世界では農薬に強い批判が投げかけられ、各国での農薬規制も進み、米国でも世界でもっとも使われてきたモンサントの農薬ラウンドアップに対する裁判でモンサントが敗訴するという事態も起きた。
 小農を基盤に、化学肥料にも農薬にも依存しない農業の推進、これは農薬/遺伝子組み換え企業、さらに穀物メジャーなどの多国籍連合にとっては脅威に移っただろう。しかし、彼らは着々と対策を練って実行に移した。
 
 そして、今、彼らは国連を乗っ取りつつある。2020年には住友化学や遺伝子組み換え企業によるロビー団体であるCropLifeがFAOのパートナー契約を結んだ。アグロエコロジーを推進することを掲げているFAOがCropLifeのパートナーになるというのは矛盾する動きであり、世界中から撤回を求める声が上がるが、国連事務総長もFAO事務局長もその声を無視し続けている。
 
 もう1つの懸念がある。国連を含め、公的な機関が民間企業の影響下に置かれる傾向が高まっている。いや、構成国の世界各国政府においても民間企業の影響下に置かれる傾向は高まっている。税金で行われてきた公共事業の民営化が進む一方、政府の中に民間企業の社員が入り込み出している。そして公的な政策が民間企業の利益になる方向にねじ曲げられることがこの10年間、増えている。官民連携(Public-Private Partnerships)という名の下で公的政策が変えられてしまっている。
 多国籍企業が国連を乗っ取る上での足がかりとなるのがMultistakeholderism、ステークホルダーとして多国籍企業が国連の意思決定に入っていくものだ(1)。
 
 それを象徴するのが2021年9月に行われた国連食料システムサミットだろう。2008年の食料危機の後、国連組織は民主化され、国連で開かれる会議では市民団体がその準備過程から参加し、議題なども市民側が設定することができた。しかし、このサミットでは市民団体は排除され、企業のための見本市のような議題にされてしまっている。
 
 この10年間、自由貿易協定などを通じて、各国政府の政治を変え、単一作物を化学肥料・農薬を使って、大規模に作らせ、国際貿易で儲ける、というグローバルな食のシステムを作らせることが進んだ。ブラジルは優位となる大豆に特化し、主食の米も小麦も輸入しなければならない状況が進んだ。そんな歪な食のシステムはひとたび、新型コロナウイルス蔓延や戦争が起きて、貿易に支障が生じれば、あっという間に主食の値段が高騰する。貧困層の生活を直撃してしまう。そんな脆弱な食のシステムを作らせてきたのがこの多国籍企業連合だった。
 
 今回の食料危機もこのような国際政治が作り出した構造的な危機である。農民や市民は従来持っていた地域の食を奪われ、こうした危機でもっとも苦しめられる。一方、危機が起きれば、こうした企業群の多くは通常よりもはるかに大きな儲けを得ることができる。
 
 食料危機を作り出してきたその張本人たちが、その解決者であるかのごとく動き出す。「食料危機を避けるために有機農業はあきらめろ」「食料危機から人類を救うためにゲノム編集や精密発酵など合成生物学が必要だ」と叫び、その情報の洪水に人びとの意識が変えられようとしている。しかし、これらの工業型農業に関する技術は、そもそもこうした危機を作り出してきたモデルを究極まで煮詰めたものだ。根本的に生態系の循環を破壊するモデルであり、その推進は危機をさらに深めるだけ。やはり本当の解決は生態系を回復できるアグロエコロジーモデルをおいて他にない。
 当然、工業型農業の推進は気候危機、生物絶滅危機、健康危機を加速する。そして、化石資源に頼り、その争奪戦により国際紛争も頻発するだろう。世界各地で戦争が恒常化しかねない。戦争は最大の環境破壊であり、これが止められなければ、気候危機も他の危機も止められなくなる。まったくの逆コースが今、推進されている。
 
 どのようにFAOを多国籍企業連合が買収しつつあるかを市民組織のFIANなどが詳細なレポートにまとめている。農薬企業や化学肥料企業がFAOにどうアプローチしたかがわかる(2)。
 
 6月13日から170回FAO理事会が始まるのに際して、世界の430団体がCropLifeとの提携関係を破棄することを求める署名をFAOに提出している。日本からは日本消費者連盟が署名している(3)。
 
 民間企業の利益が政府の政策となり、国連の方針も決めてしまうことに対して、こうした企業の活動を規制することが不可欠だ。企業の人格権を否定し、企業献金を止めさせ、政府や国際機関での活動を規制しなければ、国際社会は多国籍企業によってさらにボロボロになる。 
 

(1) Multistakeholderism: a critical look
https://www.tni.org/en/publication/multistakeholderism-a-critical-look
岸本さとこさんが活動された団体のマルチステクホルダー主義の説明
 
(2) Stop corporate capture of FAO
https://www.fian.org/en/press-release/article/stop-corporate-capture-of-fao-2969

(3) 430 civil society and Indigenous Peoples groups to FAO Council: End partnership with pesticide industry
https://panap.net/2022/06/430-civil-society-and-indigenous-peoples-groups-to-fao-council-end-partnership-with-pesticide-industry/

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