気候危機がいよいよ深刻化する中、COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が人権侵害の懸念の大きいエジプトで始まった。気候危機を作り出す真犯人が救世主の振る舞いをしていることを見抜く必要がある。そして、食を地域で変えることで気候危機を克服することができることを多くの人が世界で認識し始めている。
気候危機というとすぐに発電方法の話にされてしまう。石炭などの化石資源の使用をどうなくし、再生可能エネルギーに移行するか、それは重要なのだが、それだけでは克服は不可能。気候変動効果ガスの半分は直接・間接を入れるとその半分は食のセクター(農畜産・流通・廃棄含む)から出ているからだ。工業的農業が気候を破壊していることを語らないことが大きな問題になっている。エネルギーセクターを犠牲の羊として提供して、危機を引き起こしている真犯人はあたかも自分が気候危機への救世主として振る舞うことすら始めている。グリーンウォッシュどころの話ではない。
バイデン米国大統領は気候変動のための農業イノベーション・ミッション(Agriculture Innovation Mission for Climate、AIM)を打ち出した。これは気候変動ガスを生み出す工業型農業を有機農業・アグロエコロジーに変えるというものとは正反対で、この危機を利用して、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、ロボティクス、AIを使った企業の特許技術、アグリテックを売り込もうという動きである。このミッションに参加する組織を見てみよう。バイエル、BASF、シンジェンタなどいつもの遺伝子組み換え企業、そしていつも彼らと一緒のビル・ゲイツ財団、住友化学が主要メンバーのCropLife、世界社会フォーラムなどなど。
彼らは一見、環境にいいようなイメージの施策(自然に基づく解決策、Nature-based Sollutions)を提示するが、その背後にはこれまでの企業活動の継続=自然破壊継続の意図が隠されている(1)。
しかし、一方で気候危機を工業型の食と農が作り出すのであれば、それを変革することで人類はこの危機から脱することができる。そして、その認識は急速に拡がり、ここ数年で大きなものとなっている。
2018年、パリで開かれたCOP24で、フランス政府は1000分の4イニシアティブを提案した。これは土を守る農法を普及させることで土壌が吸収する炭素を1000分の4、毎年増やすことで気候危機が回避できるとして、そうした政策を進めようとするものだ(2)。
そして、2020年に英国グラスゴーで行われたCOP26ではグラスゴー食と気候宣言が出された(3)。これは世界の市民と自治体が作った宣言で、気候危機からの脱出のために地域の食のシステムを地方自治体によって変えようというものだ。画期的なのは国際政治の立役者として市民と地方自治体が出現したことだ。これまで国連会議と言えば、国が中心的な役割となってきた。しかし、多国籍企業に水道などの公的サービスを奪われた市民の活動によって、地方自治体が重要な政治の担い手として登場してきた。地方自治体が学校給食を有機にするなど、地域の食と農を生態系を守るシステムに変えていくことがとても有効な手段になる。
地方自治体が直接その担い手になり、国際的にも直接つながって、国際政治を変えていく時代が来ている。国を待つ必要はない(もちろん、国も変えなければならないが)。
こうした動きを受けて、食・農の問題に関わる世界の市民団体が結集して、国際気候農業連合(The International Coalition on Climate and Agriculture 、ICCA)が作られた。このICCAが米国政府のAIM構想に反対する声明を出している(4)。団体賛同を求めている。
地域の小農に基盤を置く生態系を守る農業(アグロエコロジー)へのできる限り早いシフトが、発電方法などの化石燃料からの脱却と共に必要とされている。そのテーマを二重三重に表に出させないために、COP27ではさまざまな情報の煙幕がたかれているが、それに惑わされずに、今、求められている施策の実現が何であるか、世界に示していく必要がある。
気候変動対策をめぐる食・農の問題がどう日本で報道されるか/されないか、日本の政策にどう影響するか、しっかりと見た上で、地域の食の政治を変えていく必要がある。ダメな政府が動くのを待っている余裕はない。
(1) IPES FOOD: Smoke & Mirrors
https://ipes-food.org/pages/smokeandmirrors
本当の解決策ではないものを解決策であるかのようにみせかけているその実態をまとめた報告書。
Nature-based solutionsとはたとえば炭素取り引き(つまり二酸化炭素を排出する企業が二酸化炭素を吸着する事業に投資することで、自ら排出していることを免罪する仕組み)など。そうではなく、本当のアグロエコロジーこそが必要とされている。そしてそれには多くの農民、市民、科学者が賛同し、国連総会も同意しているはずなのに、近年の会議ではそれらが背後に押しやられ、実質破壊継続のための施策ばかりがずらりと並んでいる状況になっている。
(2) 土壌への炭素貯留で世界を救う~ 4/1000 イニシアチブ
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/no112_4.pdf
(3) グラスゴー食と気候宣言 Facebook 2020年12月16日の投稿
(4) Statement Calling for Opposition to the Agriculture Innovation Mission (AIM) for Climate and Its Agritech Agenda and Support for Ecological Farming, Based on Agroecology and Other Low-external Input Methods, as a Solution to Addressing the Climate Crisis
https://icca.international/signatory-statement/