米国政府の遺伝子組み換え生物規制緩和を裁判所が覆す判断

 これはすごい朗報! 今度は米国市民が勝った!
 前トランプ政権は2019年に遺伝子組み換え生物の規制をなし崩しにする大統領令を発し、その政策は2020年から実行され、米国政府は多くの遺伝子組み換え作物、樹木、芝などの監視をやめてしまったが、それに対して、市民団体がその違法性を訴えていた。12月2日、連邦地方裁判所はこの政策を覆し、遺伝子組み換え生物は規制しなければならないという判断を下した。
 
 前トランプ政権は2019年6月に遺伝子組み換え生物規制緩和と「ゲノム編集」生物の規制なき流通に関する2つの大統領令を発している。それを受けて、わずか4ヶ月で日本政府は米国同様の「ゲノム編集」生物の流通を許してしまった。今回の判決は遺伝子組み換え生物に関わる前政権の政策変更に関わるもの。
 
 2020年の政策変更を受けて、米国では多くの遺伝子組み換え作物が承認不要となってしまった。その事態に対して、米国の市民団体、食品安全センター(Center for Food Safety)やFriends of the Earth、生物多様性センター(Center for Biological Diversity)、農薬アクション&アグロエコロジー・ネットワーク(Pesticide Action & Agroecology Network)が原告となって訴えていた。
 
 「ゲノム編集」生物を規制なく流通させる、というのも大問題なのだが、それと同時に遺伝子組み換え生物に関する規制も緩くしていたのだ。「問題がないとわかったから規制を緩和した」のではない。むしろ遺伝子組み換え問題はより深刻になっている。一例を挙げよう。
 
 すでに遺伝子組み換え作物を何年も栽培し続けた農地ではモンサント(現バイエル)の農薬ラウンドアップが効かない雑草が増えてきた。雑草が耐性を獲得してしまったからだ。農薬をかけて草を一掃し、その農薬に耐える遺伝子組み換え作物だけが育つ、という仕組みが崩壊し、雑草が農場を覆うようになった。この事態に対して、モンサントをはじめとする遺伝子組み換え企業はラウンドアップにジカンバや2,4-Dという古い農薬を混ぜて、それに耐える遺伝子組み換え作物を作って売るようになった。
 
 しかし、このジカンバという農薬は揮発しやすく、周りの農場や周辺の生態系に甚大な被害を与えるようになった。ジカンバ耐性以外の作物は被害を受けてしまうので、有機農家もやむをえず、有機農業を放棄してジカンバ耐性遺伝子組み換え作物の栽培を余儀なくされたり、多大な環境被害が拡がり、集団訴訟も起こされている。
 
 そして、もう1つの2,4-Dはベトナム戦争で使われた枯れ葉剤の主成分の一つである。ラウンドアップに加え、これらの問題ある農薬が混合されることによって環境被害、健康被害はさらに深刻になっていくことが予想されている。そんな中、規制緩和をするということが何をもたらすか、想像がつくだろう。だからこの規制緩和を覆す裁判所の判断は大きい。
 
 さらにこの判断は日本にも大きな意味を持つ。日本政府は前岸田首相がとん挫していた花粉症治療用の遺伝子組み換え稲の開発の再開を促している。食用の遺伝子組み換え作物の栽培こそ、日本では行われてこなかったが、米国の規制緩和は日本政府にも大きな影響を与えることが想定されるので、米国で止まれば、その影響もまたあるということになる。
 
 米国大統領令をひっくり返した米国市民の活動には本当に頭が下がる。しかし、いつまでも他力本願ではなく、自分たち自身で問題ある日本の動きを止めなければ、特に日本発の悪い動きは止まらないわけで、彼らのがんばりに感謝しつつ、日本をなんとかしなければ、と強く思わざるをえない。

Victory! Federal Court Strikes Down Lax GMO Rules, Halts GE Crop Introductions Without USDA Oversight
https://www.centerforfoodsafety.org/press-releases/6975/victory-federal-court-strikes-down-lax-gmo-rules-halts-ge-crop-introductions-without-usda-oversight

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