ゴールデンライスとGMササゲ、新たな植民地主義

 12月10日、フィリピン農業省植物産業局が遺伝子組み換え稲であるゴールデンライスを食品、飼料、加工用に承認した(1)。このゴールデンライスについてはもう何度も書いてきたので、詳しくは書かないけれども、表向きは「発展途上国でのビタミンA不足を補うために遺伝子組み換えした」というもの。しかし、その内実はおよそお粗末なもので、ビタミンAの前駆体のβカロテンがわずかに含まれるものの、精米の過程でほとんど失われてしまう。
 もしビタミンA不足と言われたらどうする? 緑黄色野菜食べるに限る。別に米で採る必要ない。しかも、ゴールデンライスででビタミンA不足を解消するのは実質的に不可能。真空パックされたゴールデンライスを1日1キロ以上食べなければ必要なビタミンAは採れない。しかも安全性は確認されていない(2)。

 なんでこんなゴールデンライスが開発されたのかというと、その目的は遺伝子組み換え反対運動を制圧するためと言った方がいいだろう。人道的な目的を掲げることで、それに反対するものは世界の飢餓で苦しむ人を殺すことに加担する、と言って、反対するものを威嚇できる。そしてその言葉は何度も反対する人たちに浴びせられてきた。

 でも、フィリピンやインドなどの農民運動団体はこのゴールデンライスに反対をし続けてきた(3)。このゴールデンライスの導入が種子を通じた農民支配につながることを知っているからだ。長年の開発を続けるも、成功せず、資金が尽きかけた時にビル・ゲイツが資金援助して、なんとかあやしいものができあがった、というところ。

 このゴールデンライスはまだ栽培承認はまだだが、ナイジェリア政府は遺伝子組み換えされたササゲ(Cowpea、害虫を殺すBt毒素を作り出すGMササゲ)の商業栽培を承認した(4)。ガーナなど他の国でも承認が続く可能性がある。2015年、遺伝子組み換え農業は壁にぶつかった。もう先進国では栽培が増えない絶望的状況。そこでアジア、アフリカでの新規市場開拓に集中することになる(ちなみにササゲをCowpeaというのは米国の差別的な表現ではないかと思う。直訳すれば牛豆。でも人が食べるもの)。

 ゴールデンライスといいササゲといい、これまでの遺伝子組み換え作物とは異なる要素がある。それは、人が直接食べるものだということだ。これまでの遺伝子組み換え作物の主流は油を採る、家畜の餌にする形で使われるものが主流であり、加工食品や飼料を通じて、人間の体に入ってくることは変わりないのだが、直接食べるケースは少ない(トウモロコシは多くの国で主食の一部だが、遺伝子組み換えトウモロコシは食用のスイートコーンの種ではない。もっともその遺伝子組み換えトウモロコシを直接食べるケースもないわけではないが。先進国ではササゲは飼料用と捉えられているがアフリカでは飼料にもなるが主に人の食用作物)。
 南の国の人びとが直接食べるものの遺伝子組み換えに足を踏み入れたことになる。先進国では食べないから関係ないという話ではまったくない。先進国による植民地主義のもっともおぞましい形がゴールデンライスでありBtササゲだと言わざるをえない。南の人びとの健康とその環境を破壊し、世界をいびつにする。アジアやアフリカが行き場を失った遺伝子組み換え企業の在庫処分場となり、日本もその中に入ってしまっている。そして、遺伝子組み換え企業はゲノム操作作物(「ゲノム編集」)に移行し、この危険な技術はさらに世界を破壊しつつある。

 土壌が崩壊していくことを食い止める存在として昨日、ササゲに出会った。アフリカ原産のこの作物をどう生かすのか、うまく使えば生態系の崩壊、気候変動の危機から脱する力にもなる。しかし、遺伝子組み換えササゲとなれば逆にそれらの危機を加速させることになるだろう。果たして、どちらに向かえるか、われわれの問題として考えたい。

(1) Philippines approves potentially unsafe GM golden rice for food and feed

(2) Facebookに書いてきたゴールデンライスに関する投稿
2019年10月29日
2018年3月22日
2016年2月14日
2015年4月15日
2015年3月11日

(3)
MASIPAG: Farmer-scientist group condemns Golden Rice approval

MASIPAG: Golden Rice: Turning a Blind Eye on Real Cause of Malnutrition

PAN: Philippines’ Golden Rice Approval Puts Farmers And Consumers At Risk – PANAP

(4) Nigerians to be force-fed with GM beans – Nnimmo Bassey

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