みどりの食料システム戦略衆院農水委員会での審議

「みどりの食料システム戦略」のための法案「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案」衆院農水委員会通過。衆院本会議の後、参議院での議論へ。満足得られる議論がされたか、検証してみたい。

今回の「みどりの食料システム戦略」、2050年までに有機農業を25%に拡大、農薬をリスク換算で50%削減、化学肥料は30%削減の目標を掲げた。これまでの日本の農政にはない画期的なものである。2050年では遅すぎるとかはあるにせよ、この方向性で与野党全会一致というのは肯定的に受け止めていいだろう。しかし、大きな問題が残る。

 確かに有機農業を拡大させる方向性はいいとして、問題はどのような農業を、どのような食を日本がめざすのか、ということだ。人びとはそうした食にどうアクセスできるのか、食の決定権は確保されるか、どんな社会がめざされるか、問われなければならない。

 日本政府は農業発展を農産物の輸出拡大に求めてきた。しかし、農業、食は社会の基礎であり、これはおかしな政策である。学校給食の無償オーガニック化を求める声が全国的に高まっているけれども、それではこの政策はそれを保障するだろうか?

 世界全体で有機農業は急速に拡大しており、日本から輸出する場合でも有機でないと市場が得られない状況になっている。たとえば日本からヨーロッパへ輸出するお茶のほとんどが有機だ。農産物輸出拡大をめざす日本政府にとっても、有機農業が増えないと輸出が伸びなくなってしまう。だから有機にしなければならないというロジックが存在する。だから、輸出向けに有機を作り、国内では農薬漬けのものを消費する。こんなシナリオは残念ながら有力だろう。

 そして、それを手掛けるのは地域の小さな家族農家ではなく、輸出を手掛ける企業によるものになるかもしれない。これでは日本全国の地域の農業を支える政策ではなく、ごく一部の輸出企業のための奨励策になりかねない(1)。

 さらに大きな問題が有機農業推進とは相容れない「ゲノム編集」種苗推進が入ったままであることだ。「ゲノム編集」を農業に適用することについて、国会議員の中で十分な認識があるか、というと政府やマスコミ情報を鵜吞みしている議員が多いのではないか?(2)
現在は種苗に「ゲノム編集」などの遺伝子操作の有無の表示義務がないため、有機農業で使ってはいけない「ゲノム編集」種苗を間違って使ってしまうことが起こりえる。有機農業を推進するといいながら、それを骨抜きにするような政策がそのままで果たして対応できるだろうか?(3)

 現在、世界的な食料危機が目前に迫っている。ウクライナの問題だけでなく、世界の穀倉地帯である南北米大陸で異常気象が続き、今後、世界の食のシステムは大きく変わることが考えられる。これまで世界に穀物を供給してきた米大陸は今後、循環型の食のシステムに変わっていかざるをえない。水源が破壊され、土壌が流出し、それを食い止めるために大幅に変わらざるをえないからだ。もう輸入穀物にも化学肥料に頼れない時代がやってくる。
 大量輸入を前提とした日本の農業政策は国内で循環する食のシステムへと大幅に転換することを求められている。もし、その転換を怠れば、日本は近い将来、食料危機に直面するだろう。

 それを防止し、化学肥料や農薬も得られなくなっていく時代を先取りして、全国的に地産地消を基本とした有機農業を推進する必要がある。しかし、現在の「みどりの食料システム戦略」はそのような構えを十分持っているとはいえない。

 日本共産党の田村貴昭議員は規模拡大を基調としてきた農政から、食料保障を基調とする農政への転換、小規模農家を基礎とする農政、フード・ポリシー・カウンシル(食料政策協議会)の活用など地域の市民が参加する参加型のボトムアップの食の政策の確立を求める修正案を提出した(4)。
 この修正案は上記の問題を受け止めていく上で、重要な手がかりとなるものだが、残念ながら否決されてしまった。日本共産党以外の野党からも賛成が出たことはよかったものの、この提案は本来、与野党全員で賛同すべきものであったと言わざるをえない。

 参議院での議論がこうした論点を含めたものとなることを求めたい。日本の食料主権を確保するためには単に農水省を超えた全省庁的な関与が必要であり、その実現のためには与野党議員のニューディール的な大きな関与が不可欠である。

(1) 附帯決議では地域の小規模農家、参考人として陳述された谷口さんが指摘された有機農家と慣行農家の交流、地域の意見の尊重など日本共産党の修正案の要素も盛り込まれたが、附帯決議だけではやはりおぼつかない。

(2) 欧州議会向けに作られたガイドブックの日本語版『ゲノム編集−神話と現実』をぜひいかしてほしい。
https://okseed.jp/genomemyths.html

(3) 遺伝子組み換えを使わない有機農業の振興が附帯決議で触れられ、これは評価できる。ただし、「ゲノム編集」技術は遺伝子操作技術であることは間違いないものの、日本政府は「ゲノム編集」を遺伝子組み換えではないとしているため、この附帯決議では「ゲノム編集」を明確に排除していないとすり抜けられる危惧がある。
「附帯決議三 環境への負荷の低減に向けて、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本とした有機農業の実践を生産現場で容易にする栽培技術の確立や、当該技術を普及する人材の育成・確保に努めること。」

(4) 日本共産党の修正案
https://twitter.com/TAMURATAKAAKI/status/1509131946244608006
(写真拡大すれば読めます)

衆議院インターネット中継
https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=53867&media_type

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