枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え大豆にもの申す

枯れ葉剤耐性の遺伝子組み換えについては何度にわたり書いてきました(枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えについての記事)。事の大きさに対して日本社会の反応はあまりに小さいです。農林水産省はさらなる枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え大豆(ダウ・ケミカル社)の承認を予定しており、12月4日期限のパブリックコメントが始まっています。

日本でこのような遺伝子組み換えの承認が相次いで行われるのは枯れ葉剤耐性に限ったものではなく、枯れ葉剤耐性でないものが安全であるわけではありませんが、まずはあらためて、この枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え大豆に絞ってその問題をまとめておきます。

枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えとは何か?

米軍がベトナムに対して行った枯れ葉剤作戦(ランチハンド作戦)ではさまざまな物質が使われているが最も使われていたのが2,4,5-Tと2,4-Dを混合した枯れ葉剤(エージェント・オレンジ)でした。2,4,5-Tはその高い有毒性のため、いち早く利用が禁止されますが、2,4-Dはその後、農薬としての使用が認められるに至っており、現在も販売されています。しかし、ダイオキシンを含むその有害性は米国環境庁も認めています。農薬としての認知の取得に際しては情報操作があったとも言われており、北欧諸国やカナダの諸州ではその使用が禁止、あるいは制限されています。

農水省の資料ではアリルオキシアルカノエート系除草剤と書かれていますが、この除草剤こそ、枯れ葉剤の主成分の1つ、2,4-Dを使った除草剤です。農水省の資料からはこの除草剤がどのような歴史をもったものであるかは一切書かれていません。

この除草剤を撒けば、すべての草が枯れてしまいます。しかし、この除草剤に枯れない遺伝子を大豆の中に操作して入れてしまうことで枯れなくするのが枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えということになります。

なぜ、枯れ葉剤遺伝子組み換えが問題なのか?

現在も使われている農薬なのだから、問題ないではないか、と思われるかもしれません。しかし、現在では撒けばすべて枯らしてしまうので、作付け前に雑草を一掃するとか、作物にかからないようにかけるなど、使える局面は限られています。しかし、ここに枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えが登場したら、状況は一変します。大豆やトウモロコシはこの枯れ葉剤を撒いても枯れないように遺伝子を操作されているので、畑中に全面散布することができてしまいます。そのため、もし枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えの耕作が承認されたら、枯れ葉剤(2,4-D)の使用量は10年以内に30倍になってしまうという予測があります。

枯れ葉剤(2,4-D)はどんな害をもたらす?

枯れ葉剤除草剤の使用により、どんなことが起きるでしょうか?

これまで多くの調査で、2,4-Dに曝されることと非ホジキンリンパ腫(白血病)との関連が指摘されています。2,4-Dを使う農場労働者にはリンパ球に染色体異常、突然変異が増えるというデータもあります。動物実験では、2,4-Dがホルモン異常を生み、ドーパミンやセロトニンの神経伝達物質の機能に悪影響を与えるということが発見されています。実際に、米国の2,4-Dを使う男性農場労働者の精子はより少なく、また精子の異常が発見されています。ミネソタ州では出生異常の割合が高く、ミネソタ、モンタナ、ノースダコタ、サウスダコタ州の農業地域での研究でも呼吸循環器系の異常が増えており、特に男児の出生異常による幼児期の死の割合も高くなっていることが指摘されています。ガン、パーキンソン病、神経損傷、ホルモン異常、出生異常などが2,4-Dに関連する健康被害として考えられます。

問題はこうした健康被害だけに留まりません。農薬が風で流されたり、地下水を汚染する問題もあります。風で流されれば流された地域の生態系が死滅します。米国環境庁と米国海洋漁業局は2,4-Dが絶滅危惧種を危険にさらしていると考えられる事実を発見したと報告しています。

現在ですら、こうした問題を引き起こしている枯れ葉剤の使用が30倍になるという時、そこにどんな問題が発生するか、想像してみてください。

なぜ今、枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えなのか?

どうして今、枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えが出てきたのでしょうか? これは1996年以降に登場してきたモンサントのラウンドアップ耐性遺伝子組み換えが効力を失ったからです。モンサントの開発した除草剤ラウンドアップをかけても枯れないように遺伝子組み換えした作物は除草剤の量を減らすと宣伝しました。しかし、近年、急激にラウンドアップが効かない雑草が増え続け、ラウンドアップの使用量は激増しています(今年、米国環境庁はラウンドアップ残留許容量を大幅に引き上げています)。

いくらかけても除草剤が効かないという事態はこの遺伝子組み換え技術の有効性を疑わせるものです。枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えはラウンドアップの効力の喪失を枯れ葉剤を混ぜることで補おうとするものですが、ラウンドアップと同様にすぐに雑草に耐性が付くことが予想されます。失敗に学び、方向を変えるのではなく、さらにより危険な方に進もうとしていると言えます。いわば自然に対する軍拡競争を続けるようなもので、効かなくなる度にどんどん多種の除草剤が混ぜられ、使われる量も増えていくことでしょう。

除草技術は農耕の歴史と共にあり、こうした除草剤に頼らない農業技術は世界各地にあります。また、遺伝子組み換えで使われる除草剤は化石燃料を元に作っており、その大量使用は環境などの汚染だけでなく、気候変動の原因も拡大し、さらにその未来も長くはありません。このような技術に頼らない農業を進めていくべきです。

米国や南米で高まる枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えへの反対

米国農務省(USDA)は昨年来この枯れ葉剤耐性トウモロコシを承認しようとしていましたが、2012年4月に行われたパブリックコメントには36万5000を超す反対意見が寄せられ、154の農民、漁民、医療関係者、消費者、環境保護の団体連名による要請書も出され、結局、未だに承認されていません。

ブラジルでもこの枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えに対する反対が高まり、ブラジル公共省は遺伝子組み換え承認を担うバイオセキュリティ技術委員会(CTNBio)に対して枯れ葉剤遺伝子組み換えのしっかりとした影響調査のないままの承認にまったをかけています。

日本政府は相次いで枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えを承認中

米国やブラジルでは反対の声が高く、承認にストップがかかる枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えを日本は下記に掲げるように次々と承認しています。そして、今、またもう1品種の枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え大豆を承認しようとしています(すべて米系多国籍企業ダウ・ケミカルによる申請)。

隔離ほ場での試験等に承認されたもの

承認日時 承認された遺伝子組み換え作物
2009年8月28日 除草剤アリルオキシアルカノエート系及びグルホシネート耐性ダイズ
2009年7月30日 アリルオキシアルカノエート系除草剤耐性トウモロコシ(2品種)
2010年11月1日 除草剤アリルオキシアルカノエート系及びグルホシネート耐性ダイズ
2011年9月2日 除草剤アリルオキシアルカノエート系、グリホサート及びグルホシネート耐性ダイズ
2012年5月29日 除草剤アリルオキシアルカノエート系及びグルホシネート耐性ダイズ

栽培・食用・飼料用に承認されたもの

承認日時 承認された遺伝子組み換え作物
2012年5月29日 除草剤アリルオキシアルカノエート系及びグルホシネート耐性ワタ
2012年12月5日 アリルオキシアルカノエート系除草剤耐性トウモロコシ(2012年、食品衛生法、飼料安全法のもとでの食品安全性、飼料安全性も確認済み)
2013年3月27日 チョウ目害虫抵抗性並びに除草剤アリルオキシアルカノエート系、グルホシネート及びグリホサート耐性トウモロコシ(2013年、食品衛生法、飼料安全法のもとでの食品安全性、飼料安全性も確認済み)
2013年3月27日 チョウ目及びコウチュウ目害虫抵抗性並びに除草剤アリルオキシアルカノエート系、グルホシネート及びグリホサート耐性トウモロコシ(2013年 食品衛生法での食品安全性確認、2012年 飼料安全法での飼料安全性確認)
2013年4月24日 除草剤アリルオキシアルカノエート系及びグリホサート耐性トウモロコシ(2013年、食品衛生法、飼料安全法のもとでの食品安全性、飼料安全性も確認済み)

結局、最後は日本列島の住民の胃の中に入る枯れ葉剤

米国でもブラジルでも大きな反対の声のあがっている枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えが承認されれば、耕作の際に大量の枯れ葉剤が撒かれます。そしてその枯れ葉剤のかけられた大豆は日本には輸入されてくることでしょう。

残念ながら、日本では家畜の飼料や加工食品で使われた場合、現在、それを消費者が知る術はありません。つまりいったん耕作されてしまえば、そして、遺伝子組み換えを使わないと宣言している信頼できる畜産農家や食品企業から直接買うのでない限り、日本列島の住民は知らない間に、この枯れ葉剤を直接間接(加工食品を等してか、家畜の肉と通してか)胃の中に入れることになってしまうのです。

現在、農水省や環境省がこの枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え大豆など4品種の遺伝子組み換えのパブリックコメントを開始しています。このパブリックコメントはカルタヘナ法に基づく野生の生物多様性への影響のみを問題にするものですが、この後に承認が待っています。パブリックコメントに何を書いたとしても、承認が止まることは期待できず、このパブリックコメントの存在意義が疑われる状況ではありますが、まずはこのパブリックコメントにこの承認への不承認の意志をあげませんか?

そして国会でこうした承認のあり方を問い直していくことが不可欠であろうと考えます。

農水省、環境省どちらも同じパブリックコメントなので、どちらか一方に提出すればよい。

参考資料

  • USDA Receives Over 365,000 Public Comments Opposing Approval Of 2,4-D-Resistant, Genetically Engineered Corn(2012年4月26日 米国農務省は枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えに反対する36万5000以上のパブリックコメントを受け付ける)
  • Liberação de transgênicos na mira do Ministério Público(2013年10月28日 ブラジル公共省が枯れ葉剤遺伝子組み換え承認に待った)
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