この記事はノーニュークス・アジアフォーラムのニュースレターのために書いたもの。
「ほとんどの先進国で、市民の力により原発 の建設ができなくなった今、 原発にたよる企業はアジアへ進出しようとしています。ノーニュークス・アジアフォーラムは、そうした動きをふせぎ、核も原発もない地球を私たちの手で作ろうと、アジア各国と連帯していくために作られました」 http://www18.ocn.ne.jp/~nnaf/
原子力村がその生存を原発輸出に求めようとする今、ノーニュークス・アジアフォーラムの活動にご注目いただきたい。転載を許可していただいたことに感謝する。
ブラジルへの原発輸出を許すな
ブラジルには2機の原子炉が稼働中、現在3機目が建設中である。この原発はドイツとの原子力協定をもとに作られてきた。しかし東電原発事故を契機にドイツは脱原発に舵を切り、原子力協定は2015年に切れる。
ブラジルでの原発の占める割合は現在わずか3%に過ぎず、ブラジルが脱原発することに大きな困難はない。東電の事故を契機にブラジルでも原発のないブラジルのための連合が原発の新設・稼働を禁止する憲法修正案を求めて活動するなど、脱原発に向けた動きが活発になってきた。ブラジル政府は、建設中の3号機を除き、2022年までの新規原発建設計画凍結決定をくだしたという報せが一時流れた。
しかし、あろうことか、ドイツが脱原発を決めた後、日本政府はブラジルに原発輸出の攻勢をかける。そして、それが進展し、6月27日、ブラジル大統領訪日の際に、日本とブラジル間の原子力協定に関する基本合意を結ぶと報道された。
幸運なことに、コンフェデレーションズカップに端を発した政府の政策への抗議行動が拡大する中、ブラジル大統領はその対応に追われ、来日はキャンセルされたため、この基本合意はまだ締結されていない。しかし、来日は今年中と言われ、この日伯原子力協定を阻めるか、日本からのブラジルへの原発輸出を阻めるか、という状況にある。
ここでブラジルの状況と市民社会の声を紹介したい。
ブラジルのエネルギー事情
ブラジルはそのエネルギーの7割前後を水力によってまかなっている。水力というと再生可能エネルギーのように思われがちだが、熱帯地域での巨大ダムの建設は水体系の破壊、魚などの生物成育環境の破壊、メタンガスの大量発生など大きな問題が生み出される。
とりわけ、アマゾン開発(特に鉱山開発)をめざす国際資本はアマゾンでの水力発電の強化に虎視眈々としており、ブラジル周辺諸国も含むアマゾン領域では140近くのダム建設計画が存在する。これらのダムが建設されてしまう時はアマゾンが死ぬ時であるとして、先住民族や環境団体をはじめとしてその建設に反対する運動は根強い。このアマゾンでの水力発電はブラジル社会の需要を満たすものであるというよりはアマゾンでの資源開発に向けられる可能性が高い。そして開発された鉱山物資は大部分が国外へと輸出されることになる。ブラジル社会としてそのエネルギーの恩恵に与るわけではないのだ。
一方、ブラジル領海の深海地帯に莫大な油田があることが発見され、その開発にもまた日本資本を含む国際資本が開発に乗り出している。しかし、海底油田での事故は続いており、油田事故に伴う汚染に対する懸念も高まっている。
このような環境や社会負荷の高いエネルギー開発に対して疑問の声が高まっている。電力の効率化、あるいは無駄に廃棄されているバイオ物質(サトウキビの絞りかす)などの利用すれば、ブラジル社会の必要とする電力は足り、さらに太陽光や風力などの再生可能エネルギーの開発を強化することで将来的にも対応できるというのだ。なぜ、わざわざ負荷の高いエネルギー開発をしなければならないのか? そこには大規模資源輸出による外貨獲得に執着するブラジル政府とそれにむすびつく寡占資本の存在がある。
ウラン鉱山による汚染も
こうした中でブラジル政府は原子力エネルギーの開発強化を目指してきた。ブラジルには世界6位とも言われるウラン鉱脈があり、30年ほど前からウラン鉱山開発が行われている。ブラジル政府はこうしたウラン資源を生かして、国内完全自給による原子力開発をめざしてきた。現在は濃縮などのプロセスは海外に依存するものの、今後はウラン鉱山の開発を進め、ウランの海外輸出も含めて生産増強を計画している。
すでに廃鉱になったミナスジェライス州のウラン鉱山には秘かに使用済み核燃料が廃棄され、その永遠に近い核汚染に周辺住民は苦しんでいる。現在は北東部バイア州カエチテでウラン開発が行われており、北東部の他の地域でもウラン鉱山開発計画がある。ウラン鉱山での地下水の放射能汚染、鉱山残滓(ボタ山)からの放射能汚染などにより周辺住民の健康被害など状況は深刻化しつつあるが、十分な情報開示、健康被害対策などは取られておらず、周辺住民の不信は高まる一方である。
現大統領は鉱物エネルギー相を経験し、大規模発電を推進してきた経歴を持ち、太陽光や風力などの分散型再生エネルギーの推進にはあまり耳を傾けず、ベロモンチダムや原発新設などに入れ込んでいる。現在稼働中の2機に加え、建設中の3号機、さらには北東部などに4機の原発の建設計画が進む中で起きたのが東電原発事故だった。
原発反対に立ち上がる市民
写真:FacebookのXô Nuclear(原発でていけ)のキャンペーンのページから
ブラジルに存在する2機の原発、そして現在建設中の3号機はすべてサンパウロ州に近いリオデジャネイロ州アングラドスヘイスにある。美しい漁村地域だがサンパウロ州とリオデジャネイロ州というブラジルでの最大の人口集中地域の真ん中に位置している。地理的にアクセスの困難な地域にあり、万一の事故の時に対応が困難であることも危惧されている。第1号機は1972年に建設が始まり、稼働開始は1984年であり、すでに30年が経とうとしている。
ブラジルにおいては原子力はエネルギーのわずか3%を占めるに過ぎず、その危険について多くの市民は十分な認識を持つには遠い状態にある。その認識に衝撃を与えたのが東電原発事故だ。
この事態に対して、世界社会フォーラムの創始者の一人でもあるシコ・ウィタケー氏は原発の新設・稼働を憲法で禁止すべきとして原発のないブラジルのための連合を率いて、憲法修正案作成のための署名活動を開始している。2015年に切れるドイツとブラジルの原子力協定については、この協定を原子力協定から再生エネルギーの支援に変更することを求めて、ドイツの市民組織とともに活動を進めている。昨年のRio+20では政府間の交渉が行われた会場から離れたピープルズサミット会場にて、反核テントを設営して、世界的な原子力利用の破棄を求める活動を行っている。
実はブラジルは放射線医療機器の放置が原因となった放射能汚染事故を1987年に起こしている。ブラジル内陸部のゴイアニア市で4人がなくなり1000人以上が被曝で苦しむ事故となった。犠牲者の一人オデッソン氏は東電原発事故の直後の5月17日に福島の犠牲者に対して連帯のメッセージを送っている。汚染事故後、ブラジル社会の差別に苦しんだオデッソン氏は「福島の事故が起きた時、私は福島の人びとに何が起きるかわかっていた。情報は一切知らされず、隠蔽され、犠牲者は差別という苦しみに直面してしまうだろう。だから事故が起きたすぐ後に私たちはあなたたちと一緒だよ、というメッセージを必死に書いた」とピープルズサミットの核テントで福島からの参加者を前に語った。
日伯原子力協定・日本からの原発輸出に反対
原発のないブラジルのための連合と、日本の市民団体が連携し、日本とブラジルの原子力協定に反対する団体署名を9月13日、ゴイアニア市での放射能汚染事故の日に提出し、年内とも言われる日伯原子力協定基本合意を許さない声をあげようとしている。
年内再度、ブラジル大統領が来日すると言われている。その時までに日本とブラジルで原発輸出を許さない状況をなんとしてでも作りたいものだと思う。
世界を汚染する最悪の原発事故を起こした当事国である日本が、日本の事故で脱原発を決めたドイツの後釜としてブラジルに入り込もうというのは二重の恥ずべき行為以外の何ものだろうか?
ぜひ、みなさまにこの問題へのご注目、ご参加をお願いしたい。
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