アルゼンチンで行われたWTOの会議を利用してEUがメルコスール(Mercosur、南米共同市場、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、ベネズエラ。準加盟国はボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナム)の国々に農民の種子の権利を奪うモンサント法の根拠となるUPOV1991年条約を強制しようとしているとリークされたが、そのリークされた文章が公開された。
大量の文書だが、種子の権利の関係で問題になるのはこの文書
Intelectual Propoerty Rights November 2017
EU側はUPOV1991年条約の実施を迫るが、メルコスール側はUPOV1961、1978に準拠し、1991をオプションとすることで応対するも、EUはあくまで1991に準拠することを譲ろうとしていない経緯がわかる。メルコスール側諸国はそう簡単に譲らないと思うが、南米はEUへの穀物輸出などの割合が大きいため、妥協する可能性もあり、懸念は高まる。
ちなみUPOV条約とは種子の開発企業の育成者権を守るために作られた国際条約で、特に1991年の改訂では大幅に育成者権が強化され、農民の特権として種子を保存することが原則禁止することとされている。この条約を自由貿易協定で押しつけられることで、その国は農民の種子の権利を奪う国内法を作ることを義務付けられる。
ラテンアメリカでのモンサント法案はこうして登場してきた。
世界のトップ10の種子企業のうち5つがヨーロッパを地盤としている。世界の6大遺伝子組み換え企業(その数は合併・買収によって今後減ることになるが)の3つがヨーロッパ(厳密に言うと1社はスイスなので、EUではないが地政学的に影響はヨーロッパにあるとしてとりあえず、ヨーロッパとしておく)。世界の農家の種子の権利を奪うことに大いに関心がある大企業があるところであることは頭に入れておく必要があるだろう。
実は日本政府もとっくにUPOV1991年条約は批准しており、たとえば企業のライセンスが規定されている種子を保存すれば窃盗罪となる。この条約に準拠した法律は種苗法で、種苗法が共謀罪の対象となったことは記憶に新しいだろう。
日本の場合には権利がきわめて規制されている民間企業の種子の他に、都道府県が作る公共品種が存在しており、さらに自家採取で維持されている種子もある。そうした種子はいわゆるモンサント法の対象とはならない。しかし、その公共品種が今、攻撃を受けている。公共品種のスペースが狭くなれば自ずと自由は確実に減ってくる。そしてそれで利益を得るのは独占企業、多国籍企業となる。
TPP11となって、いくつもの項目が凍結されたが、このUPOV1991の義務化という条項は凍結されていない。TPP参加国の半分はUPOV1991を署名しておらず、国内には反対運動も強い。しかし、3月に正式に成立してしまうとなると今後、大きな問題になっていくことは間違いがない。