ヨーロッパと日本のタネ:どう違う? ドキュメンタリー“SEEDS OF EUROPE”を見て

 世界でタネが焦点になっていることを5月4日に長い投稿でまとめた。ヨーロッパ、EUでは2つの動きがあることを伝えた。一つは有機農家のタネの促進をめざす方向、もう一つは「ゲノム編集」の導入に向けた動きだ。
 
 でも文字ではなかなか伝わらない。前者の有機のタネに関するとてもいい短いドキュメンタリーがある。“SEEDS OF EUROPE”(34分)。アイルランド、ルクセンブルク、フランス、イタリア、オーストリアとチェコ共和国の農家を訪れ、タネの問題を浮き上がらせる。

“SEEDS OF EUROPE”(34分)

 
 2022年にEUで有機農業の新たな法制が整備されるまで、有機農家のタネを流通させることは非合法だった。ようやく2022年からそれが合法的にできるようになったが、いまだにさまざまな制約がある。
 
 気候変動が激化している現在、遺伝的に多様なタネはその被害から生産を守るためには必須だ。でも、今、流通しているタネは多様であることを許されていないもの。気候危機に備えるためにも多様なタネが必要だ。映画の中でも、「これって同じ品種なの?」と問われるくらい、多様な収穫が穫れる。形も色も大きさも違う。でもその多様性が重要である。
 
 それなのに多様性のあるタネを必要な分を売り買いすることができない。2022年に合法化されたけれども、量は限定され、種採りに必要な材料の範囲しか売り買いできない。とても制約が多い。でも欧州議会で承認された4月の改正案はとても農家の期待を裏切るものだった。
 
 日本政府は有機農業生産を25%に拡大させるみどりの食料システム戦略を打ち出した。当然ながら、有機の種子もそれだけ必要になる。日本政府はどうその生産に関わっているか? 0%! もちろん、有機のタネがないわけではない。でもそれは政府の支援もなく、限られた種採り農家のボランタリーな努力に依存しており、拡大させることは難しい。到底25%に拡げることなど不可能。その問題を指摘すると、政府は「タネは有機でなくてもいい」とごまかすが、有機に適さない種子しか提供せずにどうやって有機農業やれ、というのか? EUであればタネが有機でなければ有機とはみなされないし、化学肥料で育てられたタネは化学肥料を待っている。やっぱり化学肥料が必要、という方向に持っていきたいのか?
 
 この短いドキュメンタリーを見れば、ヨーロッパのタネを採る農家たちがどんな思いでタネを育てているかが伝わってくる。言葉はフランス語、ドイツ語、イタリア語なども出てくるので字幕はオンに。自動翻訳の日本語でもかなりつかめるはず。
 日本の有機農家の方、あるいはそういう方を知っている人ならば、映画で描かれているのは日本とまったく同じ風景じゃないかと思うだろう。ちょっと顔は違うけど、まったく日本の有機農家と物腰からして同じだ。文化的に違うのに、驚くほど雰囲気が似ている。農家同士なら瞬間的に打ち解けることができるだろう。
 
 でも、採るべき政策をはっきりと誰もが口にしている点は大きく違うかもしれない。日本では個々の実践論になってしまって、政策論が生まれない傾向があると思う。政府の政策分析が共有されていないことがその原因の一つではないか。日本政府のポジションが世界で最悪なことが共有されれば、それをなんとか変えようという声になっていくはずだ。
 
まずは見てほしい。

参考までに以下のページも
気候変動に対応するためには農作物の種子の多様性だけでなく、その野生近縁種が大きな役割を果たすことを示した記事。気温の変化、干ばつに野生のタネは耐える力が強い。
Seeds From Wild Crop Relatives Could Help Agriculture Weather Climate Change

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