種苗法:問われる公的種苗事業の存在価値

 この間、種苗法改正をめぐって、さまざまな人たちから質問が農水省に出されているのだけど、この間の農水省の説明や、質問に対する回答に現実との大きなギャップを感じています。
 もっとも、他の情報公開でよくあるように黒塗りの答えが出てくるようなことは一切なく、担当されている農水省の方はとても真摯に答えてくれていて、それはとってもありがたいと思います。そこには今後、同じ方向を歩む可能性も感じられるのだけど、それでも種苗法改正に絡むところはどうにも納得がいかないことばかりなのです。
 そこで納得がいかないことについてまとめてみることにしました。まず、その1。
 
 「種苗法で変わるのはほんの一部。登録品種は1割しかなく、残りは変わりないから大きな影響を与えません」という農水省の説明。


 
 登録品種は期限が過ぎると登録切れになるから登録切れした品種(「一般品種」と農水省は呼ぶ)が数として増えていくのは当たり前。でも、その古くなった品種が現役であるか(生産されているかどうか)はまた別の問題。生産されなくなった品種の数がいくらあっても、それは選択肢にならない以上、あくまで現在、生産されている状態で比較しなければならないはず。そう聞くと、生産ベースで1対9という返答。

 実際に稲について調べてみると、2018年時点で栽培されている登録品種の数は174品種あるのに対して、「一般品種」は96しかない(農水省の公開している品種検査量で確認)。
 登録品種の方がずっと多い。ただ、生産面積でいうと、「一般品種」のコシヒカリとひとめぼれ、あきたこまちの3品種だけで日本のお米の半分を占めるので、生産量では「一般品種」が多くなるけど、それでも登録品種は3割を超している。

 

 特にお米の育種に熱心な北海道や愛知県ではそれぞれ88%、63%が生産量ベースで登録品種となっていて登録品種の割合がずっと多い。沖縄で一番栽培されているサトウキビは9割が登録品種、果樹に力を入れている山梨県では果樹の登録品種の割合がやはり高い。
 その地方で力を入れている作物はやはり登録品種の割合が多い傾向が見られる。となると、一番その地域で鍵となる作物に影響が出るのが今回の法改正ということにならないか?
 
 今回の種苗法改正で影響を受ける品種の総数はなんと、5294品種!(登録品種8315品種のうち、農水省省令で指定された396の植物種に属する3021品種を除くものが今回の種苗法の改正の対象となる)。
 この現実と農水省の説明とに大きなギャップを感じるのは僕だけだろうか?

 たとえそれだけ多くの品種が許諾制になったとしても、その多くは地方自治体や国の農研機構が育成者なので、許諾料は安いはずだし、場合によっては、許諾不要とする可能性もあって、影響は抑えられると農水省は言う。だけど、ここからが問題なのだ。
 つまり、今後、国や地方自治体の種苗事業への予算が削られていく懸念が高い。そもそも種子法廃止も種苗法改定も、こうした公的種苗事業を民営化させるための布石であり、民間企業と同じ条件で競争させる、という発想の下で、税金で事業をするのではなく、農家に買わせる形に移行させていく。そうなれば、これまで地域に合った多品種を多く作り出してきた公的種苗事業は細っていくだろう。
 種苗法が改正されてもすぐに民間企業が出てくるということにはならない。なぜなら当面しばらくは公的種苗事業が健在だから。でも、予算が削られていく中で、徐々に公的種苗事業が機能停止していく。そうなると農家はもう民間企業から高い種子を買うしかなくなっていく。ただ高いだけでなく、農薬を使うことがセットで付いてくる。
 これは米国で大豆やトウモロコシ、インドのコットンなど、世界各地でここ20年くらいの間に実際に起きていることだ。農業のあり方、食のあり方が変えられていってしまう。だから世界で種子の自由運動(Seed Freedom Movement)が提起されざるをえなかったわけだ。日本だけそれからまったく別世界であり続けるとは考えることはできない。もし種苗法が今の案のまま改正された10年後、いったいどうなっているかを考える時、あまりに変わり果てた状態になっていることになってしまうだろう。

 もっとも、これまでの公的種苗事業が100%よかったということはできないだろう。国策として国家の強制で種苗が管理された戦前のケースを思い起こす人もいるだろう。
 もっとも、戦後の公的種苗事業は地域の篤農家の力も得ながら、日本の食を支える根幹をなしてきた。そうした品種を地域の育種家たちがさらに改良し、世に問うこともできた。今なお、そうした育種家・育苗家たちは十分評価されていないという批判は大事だろうし、公的種苗事業をそうした地域の育種家や農家たちとの間で再評価して再構築していく必要は間違いなくあるだろう。
 でも、この公的種苗事業を骨抜きにしてしまえば、日本の農業は遺伝子組み換え企業、あるいは新興ゲノム編集企業による企業によって支配されてしまう危険に曝されることは間違いないように思える。
 
 どうやって、そうならない形で、地域で新しい品種を作る人たちやそれを使う側の農家が地域の種苗を発展させ、地域の安全な食を構築していけるか、議論していく必要があると思う。国の予算のあり方、そして地方自治体のあり方が問われていくことだろう。
 今回の種苗法の問題は、農業のあり方、社会のあり方に関わる問題であり、ただ、単に個々の農家が自家増殖するかしないか、許諾料を払うか、払わないかという問題ではないのではないだろうか?
 
 その2はまた改めて書きます。

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