インドの農民デモと日本

 1月26日、インドで空前の規模の農民デモが行われた。日本のマスメディアも取り上げたので、そのニュースは日本でも多くの人が見たと思う。
 そのインドの農民に支援のメッセージが、フィリピン、インドネシア、韓国などアジア、ブラジルなどラテンアメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、北米など世界中から送られている(1)。
 このデモは昨年9月に施行された3つの農業新法に反対したもので、このパンデミックの中、全国的な抗議行動を長期にわたって続けている。この新法は一言で言えば、農業の規制緩和、つまり民間企業の農業における自由度を高めるもの。それまで卸売市場を介して売らなければならなかった農産物を民間企業が直接買うことができるようになる。このことによって農家は民間企業に買い叩かれ、最低価格を下回る価格で農産物が売られ、小規模農家が破産に追い込まれると危惧されている。13億の半数が農家で、しかも2ha未満の小規模農家がほとんどを占めるインドでこのような改革が行われれば、食べていけない人たちが続出する(2)。
 世界の農家が掲げるスローガンはNo Farmer, No Food, No Future! 農家がいなければ食もなく、未来もない(3)。

 これはまさしく日本に言えることだ。実はインドと同様のプロセスが日本でも進みつつある。特に現在、日本ではこのパンデミックの影響で米価が暴落している。生産費用は60kg1万7000円近いのに販売価格は1万円近くに暴落(4)。こんな赤字では離農者は激増せざるをえなくなるのに、日本政府は抜本的な手を打とうとする姿勢はゼロ。経産省などとしては家族農家はいなくなれば農地が集積できて、民間企業がさらに活躍できるということだろう。
 インド政府に多くの農家が声を出せるのに、日本では声を出しても政府や社会に聞く耳がない、というのが現実ではないか?

 このままいけば、大規模企業農園で作られた、あるいは輸入された農薬漬けの食しか手に入らない時代になってしまう。大規模企業農園は儲からなくなれば生産が止まる脆弱なものであり、それに依存することは食料保障の見地からも危ういものがある。
 これは農家の問題だけではなく、消費者の生活、そして日本の地方の存続、環境の崩壊につながりかねない大問題である。しかし、日本では大規模なデモは起きていない。ツケは個々の農家に押しつけられ、黙って離農する他、すべがなくされているのが日本の現実ではないか?

 世界大で民間企業(多国籍企業・金融企業)が「農業改革」を要求し、それに各国政府がその政策を進めている。そのプロセスは同時で世界大。でも同時に抵抗も世界大で広がっている。小規模農家への支援に踏み出す国も出ている。しかし、日本では農家の権利を奪う政策、法律改正が行われ続けている。これは農家の問題に留まらない。社会の生存の問題だろう。

 日本ではむしろ逆に民間企業が買い上げてくれることに一抹の希望を見出す人もいるかもしれない。市場で暴落した価格で売るよりも、企業が全量買い上げしてくれるシステムの方が助かる、と。でも、それが意味を持つのは他で売ることができるオプションがある時だろう。囲い込まれてしまえばもはや自立した存在ではなくなり、下請け労働者化されてしまう。
 多くの中山間地の農村は消滅し、人びとは都市に集まっても職は得られず、今後、さらに厳しい状況が出現するだろう。農家じゃないから関係ないなどとは言えなくなる。
 
 どうすればこの流れを食い止めることができるだろうか? 学校給食を軸とする地産化による地域の食、ローカルフードのネットワークの構築だろう。有機化と地産化、それを地方自治体が支えることによって、農家が生産を続けられる状況を作り出す。地域で安全な食を確保することも可能になる。そうした食のシステムは技術的にも経済的にも十分なりたつことが世界的に証明されており、こうした動きは世界で爆発的に広がりつつある。そしてそれを支える地方自治体は世界に増えてきている(5)。
 
 実際にこの有機化、地産化を進めることはパンデミック対策にも有効であり、また気候変動対策にも、そして現在世界大で進んでいる土壌の喪失対策にも、また生物の大量絶滅を食い止めるためにも有効な解決策でもある。農家の権利を守る民主的社会の実現と、世界規模で進む環境崩壊を食い止めることが両立できる。取り返しのつかない危機的なところに人類は追い込まれているが、この危機を好機に変えることができるきっかけが実はここにある。
 日本国内でグローバルな食への依存を減らして、ローカルな食を重視する政策に変え、多国籍企業の動きを少しでも規制することは、世界の農家・市民との連帯につながる。
 インドの農民の闘いへの連帯はわたしたちの生活を守ることにもつながっている。インド政府、農業新法の撤回を! 
 No Farmer, No Food, No Future! 農家がいなければ食もなく、未来もない。

(1) #ShineOnIndiaFarmers や #HistoricTractorMarch のハッシュタグで、Twitter上で多くのメッセージを見ることができる
https://twitter.com/hashtag/ShineOnIndiaFarmers
https://twitter.com/hashtag/HistoricTractorMarch

(2) テレ東News:コロナ禍のインドで農家が連日大規模デモ 農業新法に反発拡大 モディ政権に試練(2020年12月11日)
a href=”https://www.youtube.com/watch?v=1A3fZt0gGkY”
BBC日本語: インド首都で農家と警察が衝突 農業新法に反発
https://www.bbc.com/japanese/55821241

(3) https://twitter.com/hashtag/NoFarmersNoFood

(4) 主食用米から飼料用米などへの転換を求める茨城県農業再生協議会のチラシ参照
http://www.ibaraki-suiden.jp/r3komekakaku_20201020.pdf PDF

(5) 世界での有機農業の急激な拡大(20年間で5.5倍近い成長)の中で、地方自治体が積極的な役割を果たしているケースは多い。韓国では多くの自治体が学校給食の有機米を実現し、EUなどでも多くの国で公共調達の過半数が有機に。日本でも愛媛県今治市、千葉県いすみ市・木更津市、大分県臼杵市などで取り組みが進んでいる。
 ブラジルでも国や自治体による地産、有機産物の買い上げ、学校給食での活用が国レベルで決まり、地域での取り組みが大きく進展する。しかし、その後、極右の大統領の登場で苦難の時となっているが、自治体の取り組みは止まっていない。ペルナンブコ州はアグロエコロジーと有機生産法を今年の1月8日制定している。
Agroecologia e Produção Orgânica viram lei em Pernambuco
https://conferenciassan.org.br/agroecologia-e-producao-organica-viram-lei-em-pernambuco/

添付したポスターは世界最大の小農団体 La Via Campesinaから

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