「細胞農業」は危機を加速させるだけ

 「細胞農業」、「精密発酵」、「精密育種」など次から次へと怪しい新造語が出てきている。中でも急速に動き始めたのが細胞農業、一言でいえば培養肉のことだ。一連の情報に目をやると、とても危ない動きになっていると言わざるを得ない。なぜかというとさまざまな危険が内在する技術なのに、あたかも動物愛護のために作られた、というイメージ戦略がすごいからだ。
 そんな問題だらけの技術なのに、問題は素通りされ、一気に法制化が進みかねない。自民党は6月に細胞農業議員連盟(代表、甘利議員、松野官房長官)を立ち上げ、今年中の法案作りに動いている(1)。法案がなぜ必要か? それをまずは税金をつぎ込むために、そして培養肉を流通させて市民に食べさせるためだ。果たして、それは食べるに値するものなのか?
 
 培養肉(細胞培養肉、シーフードも含む)とはどんなものか? たとえば鶏から幹細胞を取り出し、その細胞をバイオリアクターと呼ばれる桶のようなもので培養して、肉に作り上げるというものだ。すでにシンガポールでは2020年12月にチキンナゲットの流通が始まっており、米国では今年中の流通を見込んで、規制当局の承認を待っている(2)。韓国でも培養肉の承認ガイドラインが今年中に作られる見込みだという(3)。
 
 「幹細胞を取り出すだけで、その幹細胞を培養していけば肉を作れるということで、鶏や牛を殺さないでいい、つまり動物愛護になる」「地球温暖化をもたらす牛のゲップなどが出ないから気候危機対策になる」「ファクトリーファーミング(工場型畜産)で使われる抗生物質も使わないで済むから健康にもいい」などとバラ色の技術であるかのように宣伝されている。
 
 でも果たしてバラ色の解決策になるかというと、実際のシナリオは正反対にならざるをえないだろう。というのも、まずこうして作られる培養肉が安全かどうかだが、さまざまな疑いが出る。通常の細胞は生命体の中で、腸内細菌の力を得ながら、消化された栄養を吸収して成長する。すべての成長はさまざまな器官が相互に調整しながらバランスが取られている。しかし、培養肉はこのシステムを欠いたものだ。どう制御するのか?
 具体的な情報は企業秘密の壁に隠されていて、明らかにされているものは限られた情報しかないが、この幹細胞を育てるために遺伝子組み換えや「ゲノム編集」された微生物、あるいは最初から人間が遺伝子を設計した合成生物が使われる可能性はきわめて高い。この培養肉は遺伝子操作技術をバリバリ使ったものになるだろう。果たして私たちの腸内細菌にどんな作用をするのか、アレルギーや毒素は作られないか、疑問は尽きない。
 
 さらにはこの細胞培養に必要な栄養分はどこから調達するか、というのが次の問題になる。自然な牧畜であれば、農業には適しない土地で太陽から生み出された草を牛が食べ、それを糞に変え、土地の微生物を養う。炭素もミネラルも循環する。循環する牧畜はむしろ気候変動を止める力がある。これに対して、この培養肉はこのサイクルを止めてしまう。気候危機が厳しくなる現在、このような自然なサイクルを無視した培養肉生産が大きくなればその環境負荷も大きくならざるをえないと考えざるをえない。
 
 そして、こうして作られる肉片は生命が持つ免疫の仕組みを持たないだろう。通常の動物であれば動物はさまざまなウイルスや細菌から身を守っている。しかし、幹細胞から作られた肉は無菌のバイオリアクターの中では育つかもしれないが、ひとたび、人が存在しているところに持ち出された時にそれはあまりに無防備な存在になる。それが新たな感染症の源泉になりかねない。
 
 この細胞培養肉は生命が持つintegrityを欠いている。integrityとは日本語にしにくいのだけど、完全性、全体性、品位とか高潔さとかを表すことばだ。生命が持つ威厳、自己を律するものを欠いている。自己を保つ生命の機構を失ったものだ。むしろそうした全体性を失った肉片だけを作ることで、元の幹細胞を取り出した動物を破滅させるような感染症を作り出す危険すら生むのではないだろうか? そうした肉を作り出すことは果たして、本当の意味の動物愛護になるだろうか?
 
 そして何より、こうやって作る食は特許に守られた、巨大資本に独占された食となる。その食を食べるためには特許料が支払われなければならない。当然ながらそれを作る企業の独占が確実に生まれるだろう。現在はユニコーン企業、スタートアップ企業などと呼ばれるが、それらの企業は多国籍金融機関から多額の融資を受けており、成功すればたちまち買収されて、巨大企業へと変わっていくことは確実だ。JBSやカーギルなど現在の食肉関連巨大企業が投資している(図参照)。
 
細胞培養肉をめぐる企業動向

 たとえば豆腐であれば特許など不要で、誰もが育てられ、作ることができる。大豆を作る土地と太陽と水があればできる。それらは共有財産であり、それが人びとの生活を支える。しかし、この培養肉はそうではなく、ごく一部の企業の財産なのだ。
 
 そして、この培養肉は、遺伝子操作技術が使われるのであれば当然、遺伝子組み換え食品として表示されなければならないし、細胞培養であることがしっかり表示されることが求められるが、今は遺伝子組み換え食品も規制が撤廃され、「ゲノム編集」食品は表示すらされない。この流れを受けて、あたかも自然食品であるかのような見せかけで売られてしまう可能性すら存在する。
 
 誰のために? 巨大な企業が独占して利益を上げるために、こうした食が考案され、税金を使って、その流通のためのシステムが作られようとしているといわざるをえない。今、食料危機が叫ばれ、本当の人びとが食べる食を確保しなければならない時に、重要な税金が企業の利益のために使われようとしている。
 
 気候危機や生物絶滅危機を乗り越えるには生態系を取り戻すこと以外にありえない。生態系と地域を守るアグロエコロジーと食料主権をめざす運動はすでに世界化している(4)。
 企業の利益のために貴重な税金を奪われることなく、本当に必要な地域の食のために、使われるように声を出していく、そして世界と連帯して、いっしょに生態系を守ることこそが解決策であり、細胞農業は時間と金を浪費し、危険を増すだけのギャンブルである。
 

 
(1) 6月16日の「細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟」に関する投稿

人造肉推進議連発足、進めてはいけない

(2) Upside Foodsがユニコーンに、今年中に培養肉を米国消費者に提供することを目指す
https://minerva-db.com/articles/Dw3sn99fxc

(3) South Korea’s National Plan 2022 to Include Cultivated Meat Regulatory Approval Guidance

South Korea’s National Plan 2022 to Include Cultivated Meat Regulatory Approval Guidance

(4) 米国の市民団体、Center for Food Safety によるWebinar。A Conversation on Cell-Cultured Meat

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