植物が自分が生きるために作り出した光合成によって作り出した炭水化物、それを植物は土壌微生物に提供する。そして土壌微生物は植物が生きるために必要とするミネラルを提供する。植物と微生物の共生関係、これは尽きない興味を生み出す。莫大な量の微生物が植物を、そしてわたしたちの命を支えている。まだ人類はこの共生関係のほんの一部しか理解できていない。この共生関係はわたしたちの命の根拠であり、そして危機にあるわたしたちを守る解決策でもある。
この共生関係がどのように破壊されてきてしまっているか、研究が進んでいる。まず化学肥料がこの共生関係を断ち切る。微生物によって守られていた植物が雑草に負け、菌病などに犯される。そして農薬が不可避となっていく。この農薬は問題の解決とはならず、さらなる悪循環を作り出す。
モンサント(現バイエル)の農薬ラウンドアップ(主成分グリホサート)などの農薬は抗生物質作用を持つ。モンサントはグリホサートを抗生物質として特許を取っているくらいだ。モンサントはグリホサートは土壌に入ったら、すぐ微生物に分解されると説明していたが、実際には逆に微生物の活動を抑えてしまうため、その散布はわずかな量でも土壌の微生物の環境を大きく変えてしまう。土壌の中に抗生物質耐性菌、つまり薬が効かない菌が生み出される(1)。これは人への感染症の脅威にもなりうる。
土壌の微生物叢が撹乱されることにより、植物の発育不足、病気、そして土壌の喪失につながる。遺伝子組み換え作物の栽培のメッカ、米国の中西部の農地では肥沃な土壌のかなりの部分がすでに失われた(2)。土壌喪失による被害は毎年5億ドルの損失となっているという(3)。土壌がなくなってしまえばそもそも人が生きていけないのでもはや金額で測ることができなくなる損失になってしまうだろう。
土壌は二酸化炭素の最大の貯蔵庫であり、土壌の損失はそのまま気候変動ガスの放出につながる。それによる被害も合わせれば一体、どれくらいの損失を被っていることだろう?
問題は土壌に留まらない。同時にわたしたちの腸内微生物もまた傷ついているからだ。アレルギー、糖尿病、自閉症症候群などさまざまな病気につながる可能性が高い(4)。
しかし、このストーリーは逆転することができる。つまり、土を守ることに転じることで、被害を作り出している土壌崩壊を止め、植物と微生物の共生関係を復活させることで、土壌は再び、炭素を吸着し始める。気候変動は収束に向かい、耐性菌による脅威も減少し、健康も取り戻すことが可能になる。
そのためには化学肥料や農薬の使用を減らし、代わりにカバークロップや作物の輪作、炭(biochar)を活用して土壌微生物が育てる環境を作り出せばいい。お金が十分なくても工夫次第で実行可能な方法である。
そして、これは何も農村部に限った話ではない。たとえばデトロイトでは都市農園、家庭菜園での実験が進み、最小限のコストで土壌を急速に回復させる方法が研究され、実践されている。そして、新鮮な食が新型コロナウイルスに襲われ、大変な目にあっている市民に提供されている(5)。
こんな危機の中でも多国籍企業の影響力の強い政府の方針はなかなか変わらないが、今、地方自治体が世界各地でこうした政策を推進する主役に躍り出だした。土と環境・健康を守る農業で作られた有機農産物を学校給食で使うことを地方自治体が決めることで気候変動対策も進んでいく。
こうした自治体は2021年11月にスコットランド・グラスゴーで開かれるCOP26第26回気候変動枠組条約締約国会議に向け、食や土から気候変動を食い止めるために、連携を始めている。国による外交の時代から、こうした先進的な自治体が国境を越えて連携して新しい外交・政治を作り始める時代に変わりつつあると言えるのかもしれない(6)。
日本からもそうした自治体が出現することを期待したい。
今年は大きな変化の年にならざるをえない。
(1) Glyphosate and Other Weed Killers Create Antibiotic Resistant Bacteria in Agricultural Soils
https://beyondpesticides.org/dailynewsblog/2021/02/glyphosate-and-other-weed-killers-create-antibiotic-resistant-bacteria-in-agricultural-soils/
Effects of glyphosate on soil fungal communities: A field study
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0325754120301255
First evidence of glyphosate and aminomethylphosphonic acid (AMPA) in the respirable dust (PM10) emitted from unpaved rural roads of Argentina
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969721001212
Common weed killers favour antibiotic resistant bacteria, new study shows UNIVERSITY OF YORK
https://eurekalert.org/pub_releases/2021-02/uoy-cwk021221.php
The Pesticide Treadmill
http://www.panna.org/gmos-pesticides-profit/pesticide-treadmill
(2) New Evidence Shows Fertile Soil Gone From Midwestern Farms
https://www.npr.org/2021/02/24/967376880/new-evidence-shows-fertile-soil-gone-from-midwestern-farms
(3) Soil degradation costs U.S. corn farmers a half-billion dollars every year
https://www.colorado.edu/today/2021/01/12/soil-degradation-costs-us-corn-farmers-half-billion-dollars-every-year
(4) Are glyphosate-based herbicides poisoning us and the environment?
https://sustainablefoodtrust.org/articles/are-glyphosate-based-herbicides-poisoning-us-and-the-environment/
(5) Could a Detroit Experiment Unleash the Power of Urban Soil?
A multi-year study underway aims to build healthy urban soil quickly at minimum cost, yielding local, fresh food and climate mitigation as a bonus.
https://civileats.com/2020/07/16/could-a-detroit-experiment-unleash-the-power-of-urban-soil/
(6) 1月に行われたグラスゴーに向けたWebinarのまとめ(PDF)英文 添付の写真はこのPDFの表紙の一部
https://2ae0ff20-d9c8-4e34-a427-95229c7e180c.filesusr.com/ugd/5b1fbf_e922a46604ca4a9e966746e80c14983d.pdf
この「グラスゴー食と気候宣言」については2020年12月16日に投稿にまとめてます。参考まで
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/4842048762488582