細胞農業、工業的昆虫食、代替タンパク産業は不要

 国会で細胞培養肉などの細胞性食品・フードテックに関する質疑が22日に行われ、岸田首相は「世界の食料問題の解決に貢献する取り組みを後押ししていかなければならない」と語った(1)。
 
 世界の食料問題というけれども、何が問題なのかをすり替えればさらなる問題が作られる。世界は代替タンパク(プロテイン)でもちきりだ。いわく、細胞培養肉、代替肉、さらには昆虫食、遺伝子操作した魚の養殖…。
 
 なんでこんな騒ぎになっているのか?
 背景にあるのはこれまでのタンパク質ビジネスの頂点にあったファクトリーファーミング(工業的集約型大規模畜産)が限界に達して収益や今後の成長が見込めなくなった、ということ。気候変動効果ガスを大量に産出し、水や空気も汚染し、薬が効かない耐性菌の発生源となるファクトリーファーミングに世界は厳しい目を向けだした。そして、環境的にももはやそのような生産を拡大させることには限界が見えてきた。
 
 だから、アグリビジネス企業の次の収益をもたらせることができる次のビジネスとして取り出されてきたのが細胞培養肉であり、代替肉、昆虫食などということになっているのだ。
 
 しかし、果たして、本当に世界はそうしたタンパク質を必要としているだろうか? 人が生きるために必要な栄養はタンパク質だけではない。バランスが取れた栄養であるのになぜタンパク質だけに絞るのか? バランスの取れた地域の農業生産ではなく、巨大企業の収益の源泉となる生産こそが食料危機を救う、だから政府はそれに金を出すべき、そんなロビーの圧力が背景にあることは確実である(2)。

REPORT | The Politics of Protein 

 間違った問いからは間違った答えが出てきてしまう。今、世界で大きな問題として考えるべきことは、工業的な食の生産によって環境が破壊され、健康や生物の生存にも危機的な影響を与えているということだ。水や炭素、窒素などの循環が人間の工業的食料生産によって撹乱されてしまい、大問題を引き起こしている(3)。
 
 実際に世界の農業生産能力は世界の人口を養うために十分なものがある。問題はその生産の仕方が生態系の循環を撹乱してしまっていることにある。ここに細胞性食品や工業的昆虫食を持ってくるのはその循環にさらなる打撃を加えることになる。
 
 自然な環境の牧場で生きる牛は生態系の循環の中で土に栄養を与え、植物に成長の刺激を与え、そのサイクルを担っている。しかし、細胞培養肉にされてしまえば、その循環は断ち切られる。そして昆虫食も生態系との関わりが断たれる。外部のエネルギーを使って、外来性のほとんど同じ遺伝子の生物性物質が大量に作られるということはきわめて危険な感染症の原因を作り出す行為であり、この循環の危機が高まっている中、愚策中の愚策と言わざるを得ない。
 
 多様なバランスのある作物や畜産物を作り、地域内で循環させることこそが解決策なのであり、また余分のエネルギーも巨額の予算もかけずに済む。膨大な外部の栄養とエネルギーに依拠する細胞培養や工業的昆虫食に政府が旗振りをするのは本当に愚かなこと。すでに自民党の中には推進議連も昨年作られており、党・政府をあげて推進という背景には巨大企業のロビーがある。巨大化した企業を養える巨額のビジネスになろうとしている。
 現在、優勢な工業的な食料システムを、生態系の循環を守る地域循環の食のシステムに転換させるために最大限の予算をつぎ込まなければならないその時期に、それとは真逆の政策を進めるというのは今後、さらなる負担を作り出すことになる。決して「細胞農業」も工業的昆虫食も世界の問題を解決することはない。それどころか、危機を加速し、さらなる問題を作り出すことは確実である。
 
(1) 岸田首相、培養肉の産業育成に意欲 「環境整備進める」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA220QN0S3A220C2000000/

(2) REPORT | The Politics of Protein
http://www.ipes-food.org/pages/politicsofprotein

(3) 窒素とリン酸の循環バランスが崩れることで食料や環境の問題が起きている。農作物を取り巻く人と地球の複雑な関係
https://xtech.mec.co.jp/articles/8352

添付画像は(2) のIPES FOODの報告書から。

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