熱帯林破壊と感染症蔓延の関係

 アースデーで話す内容を考えているところにブラジルの新聞の記事の見出しに目がとまった。
「熱帯林破壊は抗生物質耐性菌を増加させる」(1)
 ウイルスと環境破壊の関係の方を調べたかったので、同じく恐ろしい感染症の元となるにせよ、菌は後回しと思っていたのだけど、やはり気になる。どうして森林破壊すると抗生物質耐性菌が増えるのか?
 2つの仕組みがありそうだ。1つは森林破壊が微生物間の関係を大幅に変えてしまうこと。もう1つは、森林破壊後、やってくる農業による化学肥料や農薬が抗生物質耐性を増やすということ。サンパウロ大学(USP)の研究結果(2)。
 
 まず前者から。その前に基本的な確認。抗生物質耐性菌は自然の中に存在する。そもそも人類が抗生物質を作れるようになったのはアオカビが細菌繁殖を予防する物質を作り出すことをフレミングが発見し、それを抽出して作られたのが最初の抗生物質ペニシリン。微生物たちはお互いに牽制し合いながら生きている。微生物は抗生物質を他の微生物との闘いの武器として自分の生きる陣地を守るために使う。微生物だけでなく、植物も他の植物の生育を妨げる物質を放って、自分が生きられる空間を確保しようとするし、ハチはプロポリスを作り、ハチの巣をそれで包み、生まれてくる幼虫を細菌から守る(ハチの体内で微生物が働いているのだろうけれども)。
 熱帯林にはきわめて多様な微生物が住んでいて、それは植物が生きていく上で不可欠なミネラルを与えるなどの共生関係を結んでいる。お互いを牽制し合いながら共存している。しかし、熱帯林破壊によって、その環境が大きく壊されてしまう。特定の微生物だけが生きやすくなる。抗生物質耐性菌を持つものが優勢になっていく。
 
 そして、それに続くのが化学肥料や農薬の侵入。たとえばモンサントのグリホサート(ラウンドアップ)は抗生物質としても特許が取られており、抗生物質としても機能する。他の農薬でも同様に作用するものがあるだろう。そのことによって抗生物質(農薬)に耐性のある微生物だけが優勢になっていく。
 
 こうして増やされた抗生物質耐性菌が人類に、あるいは他の生態にどのような影響を与えるのか、まだ十分な研究はなされていない。森林破壊されたところで作られた大豆や牛肉にその耐性菌がどのような影響を与えるのか、そしてさらにそれを食べた人にどんな影響を与えるのか、まだ断定的なことは言えないが、とても気になるところだ。
 
 抗生物質耐性菌は細菌のテリトリーの話なので、ウイルスとは違うのだけど、ウイルスもまた、森林破壊と共に大きなストレスに曝されることで変異を遂げ、人類に影響を与える可能性は十分ありうるだろう。エボラ出血熱がアフリカで森林破壊された森から出てきたコウモリなどによって人に移って悲劇的な被害が出たとされている(3)。
 
 原生林を守ることの意義、また化学肥料・農薬を使わない農業がいかに重要か、わかることになると思う。しかし、原生林が失われてしまってからでは遅い。アマゾンの破壊のスピードはさらに上がっており、日本からもその破壊のための資金がつぎ込まれている。この件も後日考えたい。

(1) Amazônia: Desmatamento causa aumento de bactérias resistentes a antibiótico.
https://noticias.uol.com.br/meio-ambiente/ultimas-noticias/redacao/2021/02/12/amazonia-desmatamento-causa-aumento-de-bacterias-resistentes-a-antibiotico.htm

(2) Amazon deforestation enriches antibiotic resistance genes
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0038071720304065

(3) ウイルスと森林破壊の関係を描いたこのビデオ(3分3秒)はわかりやすい。中山さんが作った字幕? 日本語字幕をオンにして見ることできます。このもう一歩先を知りたい。
Why diseases like coronavirus are becoming more likely

(4) 昨年4月5日にこんなことを書いていました。
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/4037301729629960

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