「ゲノム編集」をめぐるEUの政策転覆に向けたロビー活動を暴く文書が明らかになった。名付けて「CRISPR文書」。
EUの欧州版グリーンディールとFarm to Fork戦略(農場から食卓戦略)では2030年までに50%の農薬削減、有機農業は25%ヘという目標が設定されている。農薬メーカー=遺伝子組み換え企業にとっては未来の市場が消される。しかし、彼らは黙っていない。ビル・ゲイツを筆頭にEUの政策をひっくり返そうと巨額の資金とエネルギーをつぎ込んでいる。
情報公開法に基づきNGOが求めた情報公開によって、その一幕が明らかになった。そのNGO、Corporate Europe Observatory(CEO)はこの政策で遺伝子組み換え企業は農薬では市場を失う、脅威を感じた彼らはその分を種子ビジネスからの利益を増やすことに躍起となっていると見る(1)。
もっとも従来の遺伝子組み換え種子はもう賞味期限が切れてしまっている。スーパー雑草やスーパー害虫には勝てない。となると次は「ゲノム編集」しかない。米国や日本の規制は突破した。だけどEUが立ちはだかる。これを突破すれば苦境から脱出できる、と彼らは考えるだろう。
でもEUには2つのハードルがある。1つは政策、もう1つは市民の姿勢。政策的には2018年7月25日に欧州裁判所が「ゲノム編集」を遺伝子組み換えとみなすという決定をしただけでなく、もう1つ2001年に決められたGMO指令がある。これによると2001年時点ですでに長く使われ、安全が確かめられている以外の遺伝子操作はGMOとして扱われることになっている。「ゲノム編集」は明らかに違うので、この指令を改正しない限り、このハードルは越すことができない。そこでやろうとしているのが抜け道を探すこと。
ビル・ゲイツが資金を提供する財団中心に「ゲノム編集」を規制緩和させるための「科学者」が送り込まれ、そうした関係者ばかりの検討会で4月末に調査報告が発表される。その報告書が議論を変えていくことを彼らは期待している(2)。
もう1つのハードル、市民の姿勢を変えるために、別の戦略が繰り出される。つまり、「ゲノム編集」は「気候変動問題に対応したものだ」、「人の健康のためになる新品種を作れる技術だ」、そうした宣伝を行う(どこかの国では家庭菜園やっている市民に「ゲノム編集」トマトの種苗を無償で配布する。これはまさにその宣伝そのもの)。
この2つのハードルが越えられ、EUが突破されれば世界は一気に「ゲノム編集」に向かってしまうことになる。でも、市民はそうやすやすと許そうとはしないだろう。
この話から見ると、「みどりの食料システム戦略」と欧州版グリーンディールとの差がはっきりわかる。「ゲノム編集」は欧州版グリーンディールからはほど遠い。でも日本ではそれを「みどり」の中に入れてしまう。いや、むしろ、国連で欧州グリーンディールを孤立させ、変えさせるために、この提案を日本からの提案として出させることに決めたのではないか? 昨年の11月に検討会を始め、従来の政策を大きく変えることを含んでいる戦略であるにも関わらず、農薬村の抵抗もまったくなく、あっという間に1月にはもう大筋できているなんて普通はありえない。つまり、この話はバイエルや住友化学から始まったのではないのか? 普通なら有機農業を25%にする提案がすんなり通るとは想像できない。
それはちょっとひねくりすぎの見方だと言われるかもしれないが、果たして否定しきれるだろうか? いずれにせよ、「ゲノム編集」やRNA農薬をグリーンに入れていいわけはない。その結論を国連に持っていくことには断固反対すべきだし、それが重要であることは間違いないと思う。
(1) Derailing EU rules on new GMOs
CRISPR-Files expose lobbying tactics to deregulate new GMOs
https://corporateeurope.org/en/2021/03/derailing-eu-rules-new-gmos
(2) Bill Gates finance le lobby des « nouveaux OGM » en Europe
https://reporterre.net/Bill-Gates-finance-le-lobby-des-nouveaux-OGM-en-Europe
(3) 「みどりの食料システム戦略」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/team1.html
「みどりの食料システム戦略」中間取りまとめへのパブリックコメント
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550003303&Mode=0